裁判の迅速化や、より容易な司法サービスの提供、国民の司法への参加などを進めるために行われた司法制度改革の内容と、これから、憲法、民法……と勉強していくうえで、覚えるべき用語をサラサラッと。
Ⅰ.司法制度改革
司法制度改革を推進するため、2001年、司法制度改革推進法が制定されました。事前規則型から事後監視・救済型への転換という流れのもと、具体的内容には、1.裁判の迅速化と審理の充実、2.法定テラスの設置、3.裁判員制度の導入、4.法曹制度の改革――などが挙げられます。
1.裁判の迅速化と審理の充実
2003年に裁判の迅速化に関する法律が制定され、第一審の訴訟手続は、2年以内に、できるだけ短い期間で終結させることを目指すこととなりました。これを受けて民事訴訟法では計画審理制度、刑事訴訟法では公判前整理手続き等が導入されるなどの法改正が行われています。
また、民事訴訟では、専門的な事件の審理を充実させるために専門委員制度が導入され、知的財産権関係の事件に対応するために知的財産高等裁判所が新たに設置されました。
2.法テラスの設置
国民への紛争解決のために必要な情報やサービスの提供を行う目的で、2004年に総合法律支援法が制定され、全国に法テラス(日本司法支援センター)が設置されました。法テラスは、窓口相談、犯罪被害者支援、民事法律扶助――などを行います。また、法テラスでは、利用者の資力が十分でない場合でも、一定の条件を満たせば弁護士等を紹介してくれ、報酬や費用の支払いは立替えを行ってくれます。
3.裁判員制度の導入
国民の司法制度への参加と裁判に対する国民の信頼を確保するために、国民による裁判への直接関与を認めた裁判員制度が2009年5月21日から実施されています。
一般に国民の司法参加制度には、陪審制と参審制があります。陪審制には大陪審(重罪の起訴・不起訴の判断)と小陪審(裁判における事実認定)があり、主にイギリス、アメリカで採用されています。一方、参審制は職業裁判官と一般国民が協力して事実認定と量刑の判断を行うもので、主にイギリス以外の欧州で採用されています。オーストラリアは陪審制と参審制を併用しています。
では、日本で新たに導入された裁判員制度とは、いったいどんな制度なのでしょうか?
日本の裁判員制度は、一定の刑事裁判の第一審において、国民から選出する裁判員と職業裁判官が協力して、被告人が有罪かどうか、有罪の場合どのような刑を科すかを決める制度で、参審制に近いものです。
一定の刑事裁判とは、原則として①法定刑に死刑または無期懲役、無期禁錮がある罪に当たる事件、②法定合議事件で故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に当たる事件――のことです。法定合議事件とは、殺人・放火などのように重い刑罰が定められているため、3名の裁判官による合議体で審理することが裁判所法で定められている事件のことです。
国民から裁判員を選出する手続きは、①候補者名簿の作成→②裁判員候補者の選定→③裁判所での選任手続き→④裁判員の選任――の順で行われます。
①の候補者名簿は、毎年、選挙権者の中から無作為抽選で裁判員候補者を選び、裁判所ごとに候補者名簿を作成します。
②裁判員候補者の選定は、事件ごとに名簿の中から抽選で選びます。
③裁判所での選任手続きの内容は、次のとおりです。
まず、裁判長から裁判員候補者に対して、辞退希望の有無(裁判員の辞退事由は、学生や70歳以上の者など一定のものが定められています)、不公平な裁判をするおそれの有無などについて質問がなされます。この選任手続は、非公開で行われます。この時、弁護人と検察官は、それぞれ4人まで理由を述べることなく、不選任請求をすることができますし、裁判長は、不公平な裁判をするおそれがある裁判員候補者を不選任決定することができます。
④裁判員の選任は、不選任になった裁判員候補者を除いた人たちの中から、くじで6人の裁判員を選びます。必要な場合は、他に数人の補充裁判員も選任されます。
裁判員制度による合議体は、原則として裁判官3名と裁判員6名で構成され、評議・評決されます。裁判員は、証人尋問・被告人質問などの公判への立会い、評議・評決へ参加をし、判決宣告がなされると役割が終了します。評決は過半数で決しますが、必ず裁判官の1名以上の賛成が必要です。
そのほか、裁判員に選任された場合、仕事を休業することができ、日当や交通費の支給があります。しかし、不出頭などには過料が科せられたり、評議の秘密その他職務上知り得た秘密を漏示した場合には、守秘義務違反として6カ月以下の懲役を科せられることもあります。
4.法曹制度の改革
大幅な法曹人口の増加を図るために、2004年に法曹養成機関として、法科大学院(ロースクール)が開校し、2006年にはその卒業生を対象とする新司法試験が開始されました。
Ⅱ.これだけは知っておきたい法令用語
【又は・若しくは】
条文では、単純・並列的な選択的接続の場合「又は」を使います。選択の関係が何段階か重なっている場合、一番大きな段階のみ「又は」を使い、それより小さな段階は「若しくは」を使います。
【及び・並びに】
条文では、単純に連結する場合「及び」を使います。並列の関係が何段階か重なっている場合、一番小さな段階のみ「及び」を使い、それより大きな段階には「並びに」を使います。
【適用・準用】
「適用」とは、Aという事項について規定される法令をそのままAに当てはめることです。これに対して「準用」とは、本来Aという事項について規定される法令を、Aに類似している事項に多少読み替えを加えて当てはめることです。
【みなす・推定する】
どちらも本来Aと性質を異にするBについて、一定の場合に限り、Aと同一視することです。ただし、「みなす」はAでないという反証を許さないという点で、推定すると異なります。
【権限・権原】
「権限」とは、国や地方公共団体の機関の行為が、法律に則って、国または地方公共団体の行為として効力を生じる範囲を指します。代理人や法人の機関の行為についても同様です。一方、「権原」は、ある法律行為または事実行為を正当ならしめる法律上の原因を指します。
【科する・課する】
どちらも一定の義務を命ずる場合に用いられますが、「科する」は行政罰や刑罰等、何らかの制裁を与える場合に用いられます。これに対して「課する」は租税その他の負担を命ずる場合に用いられます。
【直ちに・遅滞なく・すみやかに】
いずれも時間的即時性を表します。「直ちに」がもっとも早くの意味を表し、「遅滞なく」は正当・合理的な理由があれば多少の時間の経過は許される場合に使われ、「すみやかに」は、できるだけ早くという訓示的意味に使われます。
Ⅲ.これだけは知っておきたい法格言など
*法実証主義では「悪法もまた法である」とされるのに対し、自然法思想のもとでは「悪法は法でない」とされます。
*時効制度の根拠の一つに「権利の上に眠る者は保護されない」という法格言があります。
*自白が被告人に不利益な唯一の証拠である場合有罪とすることはできないという、刑事訴訟における自白の補強法則は、「自白は証拠の女王である」という法格言から導かれています。
*刑法分野に「事実の不知は許されるが、法の不知は許されない」という法格言があるが、責任主義の観点からは、すべて許されるわけではありません。
*民法における契約の拘束力の根拠は、「契約は遵守されなければならない」という法格言です。
*罪刑法定主義を表す法格言は「法律なければ刑罰なし」です。なお、罪刑法定主義は、当初、「法律上の根拠なくして処罰することはできない」という消極的な意味でしたが、今日では、「国民の代表者で構成される議会によって制定された法律によって犯罪と刑罰が定められる」という積極的な意味を有するように変化しています。