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1-2-20 法令科目 民法 838条-881条/1044条 後見

第五章 後見

前回、養親が親権を行使できなくなった場合には、後見が開始するとお話ししましたね。今回は、その後見について、①後見制度、②後見人の事務と終了――について解説します。

Ⅰ.後見制度
後見とは事理弁識能力が不十分な人を保護する制度で、保護する人を後見人、保護を受ける人を被後見人と呼びます。
後見は、
①年齢的に事理弁識能力が不十分な未成年のための未成年後見
②成年であっても精神上の障害により事理弁識能力が不十分と認められた人のための成年後見――の2種類に分かれます。
ただし、未成年の場合には、第一次的には親権者が身上監護を行うので、未成年後見が行われるのは、通常親権者がいないなどの場合です。

1)後見の開始
未成年後見が開始するのは、親権者が親権を行えなくなった場合、つまり、
①父母双方が死亡
②父母双方に成年後見開始原因に匹敵するような精神上の障害が生じた時――などです。
父母の双方にというところが重要です。一方にこれらの事由が生じても他方が親権を行使できるので、後見は開始しません。
他方、成年後見は、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある人に対する家庭裁判所の後見開始の審判によって開始します。

2)後見人
未成年後見の場合、第一次的な未成年後見人は、最後に親権を行う人が遺言で指定した後見人(指定未成年後見人)です。この指定は必ず遺言で指定される必要があります。遺言で指定された人が、遺言の効力発生後、就任を承諾することによって未成年後見人になります。
この指定がしてなかったり、指定された人が就任を拒否した場合は、家庭裁判所が未成年者本人やその親族などの利害関係人からの請求で、後見人を選任し、その人が承諾することによって未成年後見人に就任します。この場合の後見人は選定未成年後見人と呼ばれます。
一方、成年後見の場合は、家庭裁判所が後見開始の審判を行う際に、同時に被後見人の心身状態、生活・財産状況などの事情を考慮して、職権で後見人を選定し、その人が承諾すれば成年後見人に就任します。
なお、後見人の員数は、未成年後見の場合は後見事務の円滑な遂行のために1名と規定されていますが、成年後見の場合には員数の制限はありません。

3)後見監督人
未成年後見、成年後見ともに後見人の監督機関として後見監督人が置かれることがあります。就任の仕方はほぼ後見人の場合と同様ですが、員数制限は未成年後見の場合もありません。

Ⅱ.後見人の事務と終了
後見制度とは被後見人を保護する制度ですが、民法では大きく
①被後見人の身上に関する保護の側面である身上監護権
②被後見人の財産管理に関する保護の側面である財産管理権――に分けて規定しています。

1)未成年後見の事務
未成年後見の身上監護権は、
①監護教育権
②居所指定権
③懲戒権
④職業許可権――で、財産管理権は、
①狭義の財産管理権
②代表権
③同意権――と前回お話しした親権と同一の内容です。つまり、未成年後見は親権を補充するためのものなのです。ただし、後見で後見監督人を置く場合は、後見監督人の同意が必要だったり、財産管理の際の注意義務が善管注意義務になるなど親権の場合より強い注意義務が課されています。

2)成年後見の事務
成年後見の場合、身上監護の側面では民法に「成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年非後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない」と規定されており、後見人の権能という形でなく、身上配慮義務という義務という形での規定となっています。この理由は、保護を受ける人が成年者であるために、後見人の事務も権能ではなく義務としての側面が強いことと言えます。
また、成年被後見人の財産管理として有するのは、
①管理権
②代表権――です。
未成年後見の場合にあった同意権がないことが特徴です。また、後見人が後見の立場を利用して被後見人をおとしめることを防ぐ目的で、成年後見人が成年被後見人に代わって成年被後見人の居住にする建物やその敷地について、売却、賃貸その他の処分を行うには、家庭裁判所の許可が必要と規定されています。

3)後見の終了
後見の終了事由は、大きく2つ。
①当事者の意思と無関係に当然に終了するもの
②当事者の意思に基づくもの――です。
①の当然の終了事由は、
①一方の当事者の死亡
②欠格事由の発生――などであり、
②の当事者の意思に基づくものには、
③後見人の辞任
④被後見人自身や親族等の意思を受けて家庭裁判所が行う解任――があります。

 

 

 

第一節 後見の開始
第八百三十八条    後見は、次に掲げる場合に開始する。
一  未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二  後見開始の審判があったとき。
第二節 後見の機関
第一款 後見人
(未成年後見人の指定)
第八百三十九条  未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。
2  親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定により未成年後見人の指定をすることができる。
(未成年後見人の選任)
第八百四十条  前条の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様とする。
2  未成年後見人がある場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは未成年後見人の請求により又は職権で、更に未成年後見人を選任することができる。
3  未成年後見人を選任するには、未成年被後見人の年齢、心身の状態並びに生活及び財産の状況、未成年後見人となる者の職業及び経歴並びに未成年被後見人との利害関係の有無(未成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と未成年被後見人との利害関係の有無)、未成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
(父母による未成年後見人の選任の請求)
第八百四十一条  父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は父若しくは母について親権喪失、親権停止若しくは管理権喪失の審判があったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
第八百四十二条    削除
(成年後見人の選任)
第八百四十三条  家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
2  成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
3  成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
4  成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
(後見人の辞任)
第八百四十四条  後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
(辞任した後見人による新たな後見人の選任の請求)
第八百四十五条  後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。
(後見人の解任)
第八百四十六条  後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求により又は職権で、これを解任することができる。
(後見人の欠格事由)
第八百四十七条  次に掲げる者は、後見人となることができない。
一  未成年者
二  家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三  破産者
四  被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五  行方の知れない者
第二款 後見監督人
(未成年後見監督人の指定)
第八百四十八条  未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。
(後見監督人の選任)
第八百四十九条  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被後見人、その親族若しくは後見人の請求により又は職権で、後見監督人を選任することができる。
(後見監督人の欠格事由)
第八百五十条  後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。
(後見監督人の職務)
第八百五十一条  後見監督人の職務は、次のとおりとする。
一  後見人の事務を監督すること。
二  後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三  急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
四  後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。
(委任及び後見人の規定の準用)
第八百五十二条  第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は後見監督人について、第八百四十条第三項及び第八百五十七条の二の規定は未成年後見監督人について、第八百四十三条第四項、第八百五十九条の二及び第八百五十九条の三の規定は成年後見監督人について準用する。
第三節 後見の事務
(財産の調査及び目録の作成)
第八百五十三条  後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に着手し、一箇月以内に、その調査を終わり、かつ、その目録を作成しなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。
2  財産の調査及びその目録の作成は、後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければ、その効力を生じない。
(財産の目録の作成前の権限)
第八百五十四条  後見人は、財産の目録の作成を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
(後見人の被後見人に対する債権又は債務の申出義務)
第八百五十五条  後見人が、被後見人に対し、債権を有し、又は債務を負う場合において、後見監督人があるときは、財産の調査に着手する前に、これを後見監督人に申し出なければならない。
2  後見人が、被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは、その債権を失う。
(被後見人が包括財産を取得した場合についての準用)
第八百五十六条  前三条の規定は、後見人が就職した後被後見人が包括財産を取得した場合について準用する。
(未成年被後見人の身上の監護に関する権利義務)
第八百五十七条  未成年後見人は、第八百二十条から第八百二十三条までに規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限するには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。
(未成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
第八百五十七条の二  未成年後見人が数人あるときは、共同してその権限を行使する。
2  未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、その一部の者について、財産に関する権限のみを行使すべきことを定めることができる。
3  未成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、財産に関する権限について、各未成年後見人が単独で又は数人の未成年後見人が事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
4  家庭裁判所は、職権で、前二項の規定による定めを取り消すことができる。
5  未成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。
(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮)
第八百五十八条  成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
(財産の管理及び代表)
第八百五十九条  後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2  第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。
(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
第八百五十九条の二  成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
2  家庭裁判所は、職権で、前項の規定による定めを取り消すことができる。
3  成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。
(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
第八百五十九条の三  成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
(利益相反行為)
第八百六十条  第八百二十六条の規定は、後見人について準用する。ただし、後見監督人がある場合は、この限りでない。
(成年後見人による郵便物等の管理)
第八百六十条の二  家庭裁判所は、成年後見人がその事務を行うに当たって必要があると認めるときは、成年後見人の請求により、信書の送達の事業を行う者に対し、期間を定めて、成年被後見人に宛てた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律 (平成十四年法律第九十九号)第二条第三項 に規定する信書便物(次条において「郵便物等」という。)を成年後見人に配達すべき旨を嘱託することができる。
2  前項に規定する嘱託の期間は、六箇月を超えることができない。
3  家庭裁判所は、第一項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、成年被後見人、成年後見人若しくは成年後見監督人の請求により又は職権で、同項に規定する嘱託を取り消し、又は変更することができる。ただし、その変更の審判においては、同項の規定による審判において定められた期間を伸長することができない。
4  成年後見人の任務が終了したときは、家庭裁判所は、第一項に規定する嘱託を取り消さなければならない。
第八百六十条の三    成年後見人は、成年被後見人に宛てた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。
2  成年後見人は、その受け取った前項の郵便物等で成年後見人の事務に関しないものは、速やかに成年被後見人に交付しなければならない。
3  成年被後見人は、成年後見人に対し、成年後見人が受け取った第一項の郵便物等(前項の規定により成年被後見人に交付されたものを除く。)の閲覧を求めることができる。
(支出金額の予定及び後見の事務の費用)
第八百六十一条  後見人は、その就職の初めにおいて、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年支出すべき金額を予定しなければならない。
2  後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。
(後見人の報酬)
第八百六十二条  家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。
(後見の事務の監督)
第八百六十三条  後見監督人又は家庭裁判所は、いつでも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。
2  家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。
(後見監督人の同意を要する行為)
第八百六十四条  後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第十三条第一項各号に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、同項第一号に掲げる元本の領収については、この限りでない。
第八百六十五条    後見人が、前条の規定に違反してし又は同意を与えた行為は、被後見人又は後見人が取り消すことができる。この場合においては、第二十条の規定を準用する。
2  前項の規定は、第百二十一条から第百二十六条までの規定の適用を妨げない。
(被後見人の財産等の譲受けの取消し)
第八百六十六条  後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合においては、第二十条の規定を準用する。
2  前項の規定は、第百二十一条から第百二十六条までの規定の適用を妨げない。
(未成年被後見人に代わる親権の行使)
第八百六十七条  未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。
2  第八百五十三条から第八百五十七条まで及び第八百六十一条から前条までの規定は、前項の場合について準用する。
(財産に関する権限のみを有する未成年後見人)
第八百六十八条  親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみを有する。
(委任及び親権の規定の準用)
第八百六十九条  第六百四十四条及び第八百三十条の規定は、後見について準用する。
第四節 後見の終了
(後見の計算)
第八百七十条  後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。ただし、この期間は、家庭裁判所において伸長することができる。
第八百七十一条    後見の計算は、後見監督人があるときは、その立会いをもってしなければならない。
(未成年被後見人と未成年後見人等との間の契約等の取消し)
第八百七十二条  未成年被後見人が成年に達した後後見の計算の終了前に、その者と未成年後見人又はその相続人との間でした契約は、その者が取り消すことができる。その者が未成年後見人又はその相続人に対してした単独行為も、同様とする。
2  第二十条及び第百二十一条から第百二十六条までの規定は、前項の場合について準用する。
(返還金に対する利息の支払等)
第八百七十三条  後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には、後見の計算が終了した時から、利息を付さなければならない。
2  後見人は、自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時から、これに利息を付さなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
第八百七十三条の二  成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一  相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二  相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三  その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
(委任の規定の準用)
第八百七十四条  第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、後見について準用する。
(後見に関して生じた債権の消滅時効)
第八百七十五条  第八百三十二条の規定は、後見人又は後見監督人と被後見人との間において後見に関して生じた債権の消滅時効について準用する。
2  前項の消滅時効は、第八百七十二条の規定により法律行為を取り消した場合には、その取消しの時から起算する。
第六章 保佐及び補助

民法は平成12年に、変わりゆく社会生活に対応するために大幅な改正を行いました。前回の成年後見制度でも改正点がありましたね。
今回お話しする①保佐制度、②補助制度、③任意後見制度――も、改正前の準禁治産制度に代わって登場した規定です。

Ⅰ.保佐制度
先ほども述べましたが、保佐制度は、従来の準禁治産者制度に代わって新設された制度です。成年後見制度と同じく、精神上の障害で事理弁識能力が不十分な人を保護する制度ですが、成年後見では、被後見人は常に事理弁済能力が欠如しているのに対し、保佐は被保佐人の事理弁済能力は著しく不十分ではあるものの、少しは判断能力がある人に適用されます。
保佐は、家庭裁判所の保佐開始の審判によって開始し、審判の際に家庭裁判所の職権で保佐人が選定されます。保佐人には員数制限がないことや欠格事由などは、成年後見人に関する規定が準用されます。

1)保佐人の事務
保佐人も被保佐人の身上監護上では、身上配慮義務を負いながら、
①被保佐人が行う一定の法律行為への同意
②特定の法律行為についての代理権の行使――を行います。
財産管理権についての権能は①の同意権となる点が後見人とは異なります。その理由は、被保佐人は不十分ながらも事理弁識能力を有しているので、同意の下でなら有効な法律行為となるからです。
また、②の代理権についても、家庭裁判所から代理権を付与される特定の法律行為についてのみです。
家庭裁判所が必要と認めれば保佐監督人を選任できることは、成年後見制度と同様です。保佐人と被保佐人の利益相反行為については、保佐監督人がいない場合には、保佐人は臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります。

Ⅱ.補助制度
補助制度も精神上の障害により事弁識能力が不十分な人を保護するための制度ですが、事理弁識能力は著しく不十分とまでは言えないものの、十分ともいえ人に対する制度です。
補助の開始、補助人の選任、補助の事務などは保佐と同様ですが、補助人の財産管理における同意権は、家庭裁判所が付与した一部の法律行為に限って有するだけです。

Ⅲ.任意後見制度
平成12年の、成年後見、保佐、補助に合わせて、「任意後見契約に関する法律」が制定されて出来た新しい制度です。この制度は高齢化社会の進展に伴って、自らの意思による簡易な後見開始の観点から制定され、本人の判断能力があるうちに、判断能力が不十分になった場合に備えて、後見事務の内容や任意後見人を契約によって決めておく制度です。

1)任意後見契約
任意後見契約とは、委任者が受任者に対して、精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況での
①自己の生活
②療養看護
③財産の管理に関する事務の全部または一部――を委託する委任契約です。
任意後見契約は、委任後見監督人が選任されたときから効力が発生する特約を付け、公正証書を作成し登記も必要です。
なお、この場合の事理弁識能力は、少なくとも補助に当たる程度とされています。

2)任意後見監督人の選任
任意後見契約が登記されている場合には、一定の範囲の人からの請求で、家庭裁判所が本人の事理弁識能力が不十分と認めれば、任意後見監督人の選定を行って、任意後見契約の効力が発生します。
任意後見人の事務内容は、任意後見契約に定められた内容によって決まりますが、当然法律行為に限られ、例えば介護サービスなどの日常行為は含まれません。
家庭裁判所で選任された任意後見監督人の職務は、任意後見人の事務を監督し、定期的に家庭裁判所へ報告をすることです。この任意後見監督人の職務は、間接的に家庭裁判所が任意後見人を可得することになります。

3)任意後見契約の解除
任意後見契約はあくまで委任契約の一種なので、原則としていつでも解除が可能です。ただし、任意後見監督人の選任前の解除には、公証人の認証を受けた書面が必要です。
ところで、任意後見と法定後見との関係はどうなるのでしょう?
被後見人である本人の自己決定を尊重し、両者の権限の抵触・重複を回避するために、任意後見契約が締結されている場合には、原則として任意後見による保護が優先されるとともに、両者が併存しないように努める必要があると考えられています。

 

 

第一節 保佐
(保佐の開始)
第八百七十六条  保佐は、保佐開始の審判によって開始する。
(保佐人及び臨時保佐人の選任等)
第八百七十六条の二  家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任する。
2  第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、保佐人について準用する。
3  保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。
(保佐監督人)
第八百七十六条の三  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被保佐人、その親族若しくは保佐人の請求により又は職権で、保佐監督人を選任することができる。
2  第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十条、第八百五十一条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、保佐監督人について準用する。この場合において、第八百五十一条第四号中「被後見人を代表する」とあるのは、「被保佐人を代表し、又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
(保佐人に代理権を付与する旨の審判)
第八百七十六条の四  家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
2  本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
3  家庭裁判所は、第一項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等)
第八百七十六条の五  保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
2  第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条及び第八百六十三条の規定は保佐の事務について、第八百二十四条ただし書の規定は保佐人が前条第一項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。
3  第六百五十四条、第六百五十五条、第八百七十条、第八百七十一条及び第八百七十三条の規定は保佐人の任務が終了した場合について、第八百三十二条の規定は保佐人又は保佐監督人と被保佐人との間において保佐に関して生じた債権について準用する。
第二節 補助
(補助の開始)
第八百七十六条の六  補助は、補助開始の審判によって開始する。
(補助人及び臨時補助人の選任等)
第八百七十六条の七  家庭裁判所は、補助開始の審判をするときは、職権で、補助人を選任する。
2  第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、補助人について準用する。
3  補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。
(補助監督人)
第八百七十六条の八  家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被補助人、その親族若しくは補助人の請求により又は職権で、補助監督人を選任することができる。
2  第六百四十四条、第六百五十四条、第六百五十五条、第八百四十三条第四項、第八百四十四条、第八百四十六条、第八百四十七条、第八百五十条、第八百五十一条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項及び第八百六十二条の規定は、補助監督人について準用する。この場合において、第八百五十一条第四号中「被後見人を代表する」とあるのは、「被補助人を代表し、又は被補助人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。
(補助人に代理権を付与する旨の審判)
第八百七十六条の九  家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
2  第八百七十六条の四第二項及び第三項の規定は、前項の審判について準用する。
(補助の事務及び補助人の任務の終了等)
第八百七十六条の十  第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条、第八百六十三条及び第八百七十六条の五第一項の規定は補助の事務について、第八百二十四条ただし書の規定は補助人が前条第一項の代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合について準用する。
2  第六百五十四条、第六百五十五条、第八百七十条、第八百七十一条及び第八百七十三条の規定は補助人の任務が終了した場合について、第八百三十二条の規定は補助人又は補助監督人と被補助人との間において補助に関して生じた債権について準用する。
第七章 扶養

親族編の最終回は、扶養と扶養義務です。扶養については扶養する人の順序や扶養の程度が規定されています。
今回は、扶養の仕組みを学ぶとともに、また、実務に役立つ豆情報も掲載します。

扶養とは、自分の資産や労力で、生活を維持できない人に対して援助を行う制度です。「生活を維持できない=生活保護」のように、まず社会保障制度としての公的扶助が思い浮かびますが、民法でいうところの扶助とは、東京で一人暮らしをしている大学生の息子への親からの仕送りのように、親族間の私的扶養を指します。

1)私的扶養と公的扶養の関係
私的扶養と公的扶養の間には、公的扶養の補足性の原則、または親族扶養優先の原則――と呼ばれる原則があります。つまり、第一次的には私的扶養が行われるべきであり、公的扶養はこの私的扶養を補足するものとして機能しているということです。
この原則について、私的扶養義務者が存在するにも関わらず、義務を果たさない場合に公的扶助を受けられるかが問題となります。(あるお笑いタレントが、一時期マスコミを賑わせていましたね…)
扶養能力ある扶養義務者の存在は、生活保護法の保護の欠格事由になっているというのが実務の取扱いとなっていますので、某お笑いタレントさんでなくても、注意が必要です。

2)扶養の当事者と順序
民法では扶養義務者を
①直系血族と兄弟姉妹
②直系血族と兄弟姉妹を除いた3親等内の親族間――の2つに分けて捉えています。
①の直系血族と兄弟姉妹は当然にお互いを扶養し合いますが、②のそれ以外の親族の場合は、特別の事情があるときに家庭裁判所の審判によって扶養義務が形成されると規定されています。
同一の要扶養者に対して複数の扶養義務者が存在する場合の、扶養義務を負担する順序は画一的には規定されていません。
原則としては、当事者間の協議に委ねられていますが、協議が調わないときや協議ができないときに家庭裁判所の審判によるものとされています。扶養の程度や方法についても、第一次的には当事者の協議により、できない場合は家庭裁判所の審判です。
なお、こうした扶養の順位、程度、方法などが協議や審判でいったん決定されても、その後の事情で再び協議を行ったり家庭裁判所の審判を仰ぎ、変更することは可能です。
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詳しくは下記へ

3)扶養請求権
扶養を請求する権利は、要扶養者の生活維持のための一身専属的な権利ですので、譲渡、質入れなどの処分はもちろん、相続や債権者代位権の対象にもなりません。また、扶養義務等にかかる定期金債権では、相手方の給与等の2分の1まで、それ以外では4分の1までを差押えることができます。なお、弁済期の到来で通常の金銭債権として処分等が可能になります。

4)生活保持義務と生活扶助義務
扶養義務は、内容によって
①生活保持義務
②生活扶助義務――に分けることができます。
生活保持義務とは、最後に残された一片の肉まで分け与えることによって、自己と同程度の生活を相手方にも保障すべき義務と言われています。
一方の生活扶助義務は、己の腹を満たして後に余るものを分かつという、自己の生活水準を維持できる範囲で相手方が最低限度の生活を営める程度の援助を行う義務です。
また、扶養の方法には、大きく
①金銭扶養
②引取扶養――があります。
①金銭扶養は毎月金額を決めて支払われ、②引取扶養は、文字通り扶養義務者が被扶養者を引取って扶養することで、引取った人のほかに扶養義務者がいれば生活費の一部を分担します。

5)夫婦間の扶養
夫婦間は、同居・協力・扶養義務、婚姻費用分担義務が存在していることは以前の回でお話ししたとおりで、これらの扶養義務は前項①の生活保持義務に当たります。
夫婦が離婚すれば、相互の扶養義務は負わなくてもよいことになりますが、離婚後に妻のみ困窮する場合が少なくないため、この場合には財産分与に、扶養的意味合いを含めて額を決定することで調整が図られています。

6)親の子に対する扶養
親の未成熟である子に対する扶養の場合、子を手元に置いている場合には①の生活保持義務を負うことで問題ありませんが、両親が離婚した場合や、婚外子の場合には、親権との関係で養育費の問題が発生します。親権者でない親が負担する子の養育費の性質も①の生活保持義務とするのが、最近の裁判の傾向です。
養育費の額は、扶養義務者の年収、監護する親の年収、子の人数・年齢を中心に総合的に判断されますが、通常の生活水準では、幼い子が1人の場合に月額5万円前後が、相場となっているようです。

7)子の親に対する扶養
高齢化社会の中で、子の老親に対する扶養も深刻な問題となっています。高齢者についての社会保障制度も徐々に整備されてきていますが、公的扶助は子の親族扶養を補足するものであることには変わりありません。
子の親に対する扶養義務は、②の生活扶助義務であるとされていますが、扶養義務者が複数の場合、原則として各人が全部義務を負うものとされ、例え子の1人が専業主婦であったとしても、扶養義務は負わなくていい、ということにはなりません。
扶養義務者が複数の場合、扶養料を支払い続けてきた人から他の義務者へ求償することも判例では認められています。扶養料については、過去の扶養料請求を認めた審判例も数多くあります。

 

 

(扶養義務者)
第八百七十七条  直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2  家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3  前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
(扶養の順位)
第八百七十八条  扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するのに足りないときの扶養を受けるべき者の順序についても、同様とする。
(扶養の程度又は方法)
第八百七十九条  扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。
(扶養に関する協議又は審判の変更又は取消し)
第八百八十条  扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消しをすることができる。
(扶養請求権の処分の禁止)
第八百八十一条  扶養を受ける権利は、処分することができない。

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