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1-1-5 法令科目 憲法 13条-14条/103条 人権2

第十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

また、第13条には、
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福権追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」
と規定していますが、ここでは、憲法の人権規定は、公権力に対する国民の権利や自由を保障していると明言しているのです。
では、個人と個人、国民と国民同士、法律用語で私人間(しじんかん)といいますが、私人間の人権侵害行為はどうなのかというと、民法の運用を通して、憲法の規定を間接的に適用することになります。

それでは、憲法に規定された人権にはどのようなものがあるのでしょうか?
憲法に規定された人権は、その性質に応じて、
①自由権
②社会権
③参政権
④受益権
に分類することができます。
自由権とは国が国民に強制的に介入することを排除して個人の自由な活動を保障する権利のことで、さらに自由権は、学問や表現などの精神的活動を行う精神的自由権、職業選択などの経済的活動を行う経済的自由権、国家から不当に身柄を拘束されたりしない人身の自由――に分かれます。
また、社会権とは、社会的弱者が人間として当然の生活を送れるよう国家に一定の配慮を求める権利のことで、生存権、教育を受ける権利、勤労の権利、労働基本権――に分かれ、国民が政治に参加する参政権には、選挙権や被選挙権が、他の人権の保障を確実なものとするために国に対して一定の行為を求める受益権には、請願権、裁判を受ける権利、国家賠償請求権、刑事補償請求権が含まれます。
これらの人権については、次回からは、それぞれの人権について個々に解説していきますので、参考にしてください。

判例を読むときには、常に基本的人権の何に抵触しているのかを考えて読むことが大事になります。

憲法で規定されている基本的人権の保障とは、公権力が国民の権利や自由の侵害を防ぐためのものです。そして、私人間(しじんかん)の人権侵害行為は、民法の運用を通して、憲法の規定を間接的に適用することになるとも解説しました。
このことについて、もう少し詳しく解説し、実際に行政書士試験によく出題される判例を読んでみることにします。

法は、大きく分けて、国家の内部または国家と国民の関係を規定した公法と、私人と私人の関係を規定した私法があります。私人とは、個人に限らず、会社や民間の組織などの法人も含みます。憲法が私人のことをいろいろ規定していないのは、規定すると自由経済の原則である「私的自治の法則=私人の活動は基本的に自由にさせる」というものを侵害してしまう危険性があると考えられるからです。
公法の代表格が憲法、私法の代表格は民法で、民法は私人どうしの契約や、家族の財産の相続などについて規定しています。また、企業について規定した商法なども私法に入ります。

さて、憲法界では有名な事件に「三菱樹脂事件」があります。ある人が大学卒業後、4月時点で仮採用になっていた企業で試用期間を過ごし、6月になっていざ本採用される…と思いきや、この人の学生運動の履歴が発覚して本採用されなかった――という事件です。
この人は「この会社の行為は、憲法第19条が規定する『思想・良心の自由』に反しているし、信条によって差別してはならないとする憲法第14条にも反している。内面的な思想で本採用するかどうか判定するのは非合理な差別だ」として、裁判を起こしました。

つまり、憲法は私人間の関係については直接関係しませんよ、ということです。私人(企業)が誰を採用しようがしまいが、それは国が関与することではない、ということなのです。
でも、憲法の人権に対する規定がぜんぜん私人間に適用されなかったら、私たちは困りますね。
就業規則がむちゃくちゃでも、労働者はそれに従わなくてはなりません。そうなったら国民は企業の言いなりで、ぜんぜん人権が確保されないですよね。
そこで、民法を使って憲法理念を「間接適用」することとしました。これを間接適用説と言います。

民法第90条を見てみましょう。
「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす」
ここで言う法律行為とは、売買契約や借金の契約、働くための契約就業規則の作成などで、公の秩序や善良の風俗に反する契約は無効だ、と定めているわけです。そして、憲法の人権規定は公の秩序と言えますので、間接的に憲法に謳われている人権規定が採用される仕組みになっているのです。
そして、これを具体的に適用したのが「日産自動車事件」の判決です。ある人が勤める会社には、定年年齢を男子60歳、女子55歳、という就業規則がありましたが、定年退職を命じられた女子社員らは、これは民法90条に違反している。憲法秩序では法の下の平等が規定されているのだからこの規則は「公の秩序」に反している――と訴えたのです。

地裁、高裁と原告(訴えた人)が勝利し、最高裁の第三審までいった裁判は、1981年、原告勝利で終わりました。定年年齢差別をした就業規則が民法90条に違反していることが認められ、これを契機に民法を使った憲法人権規定の間接適用説は定着しました。また、この事件をきっかけに、その後も女子の昇進差別や賃金格差などを定めた就業規定は無効であるという判決がつぎつぎと下るようになりました。
そのほかに覚えてほしい判例を記して、今回の講義は終了します。国家と私人の関係を規定している憲法について、少し理解できたでしょうか…?

今回からは、基本的人権の一つひとつの権利について、判例を見ながら解説していきます。まず手始めは、幸福追求権です。

この幸福追求権は、第10回でまとめた基本的人権の表のうちの包括的基本権に含まれる権利です。日本国憲法では第13条に規定され、1776年のアメリカ人権宣言の「life, liberty, pursuit of happiness」を基につくられたものですが、そのアメリカ人権宣言も、実はイギリス人政治学者のジョン・ロックの「国民個人個人を一人の人間として尊重し、そのために国家権力に歯止めをかけていくべき」という自然権思想を基にしたもので、幸福追求権は基本的人権の中でも基本中の基本となる重要な人権の一つと言えます。

また、第13条は、日本国憲法の根本的価値である「個人の尊厳、個人の尊重」を少し具体化させた形でもあります。
第13条の内容をもっと分かりやすく言えば、「幸福の概念は人それぞれ違うし、一人ひとりが自らの意思で決定するものだから、国家は、すべての『幸福の権利』そのものの保障はできない。でも、一人ひとりの幸福を追求しようする権利については国家が制限するものではないので、幸福を追求する権利は『公共の福祉』の範囲内で諸条件・手段を整備して国民に保障する」となります。
『幸福の権利』と『幸福を追求する権利』の違いに注意して、もう一度読み直してみましょう。

さて、現代の情報化社会の進歩によって、憲法を制定したころには考えられないような人権侵害が行われるようになってきました。インターネットの普及などで、規制をかけなければ、東京に住んでいる方の個人情報が世界中のどこでも閲覧できる社会です。例えば、現代は、犯罪の経歴などの個人が生活していく上でマイナスとなる情報も、写真付きで世界中を駆け巡る世の中になってしまった――と言えます。
そこで、憲法では、第13条の幸福追求権をその根拠として、個人が一人の人間としての人格を認められ、生存するために、このような新しい人権を保障することにしたのです。
以下に、新しい人権の中でも最高裁判所の法廷で裁かれた事件を解説します。行政書士試験でも取り上げられることが多いので、しっかり覚えてください。

Ⅰ.肖像権

この事件は、「警察官が証拠保全のために、本人の意思に反して、令状なしで個人の容貌等を撮影したことは、肖像権(憲法第13条)の侵害に当たるのではないか」が争点となった事件です。この事件では、第13条を根拠として、肖像権(肖像権と言う言葉は判例では使われていません)を人権として認めている点に注意してください。ただし、この場合は、公共の福祉のために、撮影の必要性と緊急性があったので、合憲という結審が下りました。

Ⅱ.プライバシー権
プライバシー権は、以前「私生活をみだりに公開されない権利」と定義されてきました。
しかし、情報化社会の進展で、公権力や大企業などに個人情報が集まることになったことから、単に私生活を公開されないことだけでなく、自分の情報は自分でコントロールできることが必要になってきました。
そこで現在では、プライバシー権は「自己に関する情報をコントロールする権利」と定義されています。

これは、区役所が弁護士の照会に安易に応じたことが違憲とされた事件です。この判例を通して、国や都道府県、市町村などの公権力は、国民の前科などをみだりに公表してはならないということが明確になったという点がポイントです。

Ⅲ.自己決定権
自己決定権とは、個人が自分として自分らしく生きていくために重要である個人的なことは、公権力に干渉されず、自分で決定できる――という権利のことです。

1992年に東大付属病院で起きた事件で、患者から信教上の理由で輸血をしないでほしいという意思表示を受けたいたにもかかわらず、患者の了解を得ないまま、担当医が手術の際に一方的に輸血をした行為をめぐる民事訴訟事件で、最高裁まで争われました。
結論としては、患者が輸血を受けることを拒む権利が認められたのです。
この事件は、判例として自己決定権の解釈としての先例となったばかりでなく、日本において、インフォームド・コンセントが注目されるきっかけになった、医学界でも重要な事件です。
ここでもう一度、ページの頭に戻って、条文を読み返してみましょう。上記の3例は、いずれも第13条の幸福追求に対する国民の権利に該当します。さて、次回は、人権としてのもう一つの柱「法の下の平等=平等権」を解説します。
マクリーン事件(最大判昭53.10.4)

事例

語学学校の英語教師マクリーンは、1年間の 在留期間更新の申請をしたところ、在留中に 日米安保条約反対等のデモや集会に参加して いたことを理由に更新を不許可とされた。そ こで、これを不服としたマクリーンは、不許 可処分の取消しを求めて訴えを提起した。

判例の 見解

①憲法の規定する人権の保障は、日本に在留する外国人にも及ぶか。

憲法第3章の諸規定による基本的人権の保 障は、権利の性質上日本国民のみをその対象 としていると解されるものを除き、わが国に 在留する外国人に対しても等しく及ぶ。 ②政治活動の自由は、日本に在留する外国 人にも保障されるか。

わが国の政治的意思決定又はその実施に影 響を及ぼす活動等外国人の地位にかんがみこ れを認めることが相当でないと解されるも のを除き、その保障が及ぶ。 ③日本に在留する外国人に対する人権保障 の程度は、日本国民に対するものと同じ か。

外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねら れ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが 国に在留する権利ないし引き続き在留するこ とを要求することができる権利を保障されて いるものではなく、ただ、出入国管理令上法 務大臣がその裁量により更新を適当と認める に足りる相当の理由があると判断する場合に 限り在留期間の更新を受けることができる地 位を与えられているにすぎないものであり、 したがって、外国人に対する憲法の基本的人 権の保障は、外国人在留制度のわく内で与え られているにすぎないものと解するのが相当 であって、在留の許否を決する国の裁量を拘 束するまでの保障、すなわち、在留期間中の 憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留 期間の更新の際に消極的な事情としてしん しゃくされないことまでの保障が与えられて いるものと解することはできない。

判例の POINT

①本判決は、外国人の人権享有主体性につい て、性質上可能な限り人権保障を外国人にも 及ぼそうとする性質説を採ることを明らかに した。 ②本判決は、外国人の政治活動を原則として 認めているが、認められない政治活動の判断 基準が不明確であること、在留中の政治活動 を在留期間の更新の際に考慮することにつき 法務大臣に大幅な裁量を認めていること等に は批判が強い。

関連判例

指紋押なつ拒否事件(最判平7.12.15)【過去 問】23-3、19-6 ①指紋の押なつを強制されない自由は、日本に在 留する外国人にも保障されるか。

憲法13条は、国民の私生活上の自由が国家権力 の行使に対して保護されるべきことを規定してい ると解されるので、個人の私生活上の自由の一つ として、何人もみだりに指紋の押なつを強制され ない自由を有するものというべきであり、国家機 関が正当な理由もなく指紋の押なつを強制するこ とは、同条の趣旨に反して許されず、また、右の 自由の保障は我が国に在留する外国人にも等しく 及ぶ。 ②指紋押なつ制度は、憲法13条に違反するか。

指紋押なつ制度は、外国人登録法1条の「本邦に 在留する外国人の登録を実施することによって外 国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、 もって在留外国人の公正な管理に資する」という 目的を達成するため、戸籍制度のない外国人の人 物特定につき最も確実な制度として制定されたも ので、その立法目的には十分な合理性があり、か つ、必要性も肯定できる。また、押なつ義務が3 年に一度で、押なつ対象指紋も一指のみであり、 加えて、その強制も罰則による間接強制にとどま るものであって、精神的、肉体的に過度の苦痛を 伴うものとまではいえず、方法としても、一般的 に許容される限度を超えない相当なものであるか ら、憲法13条に違反しない。 ③指紋押なつ制度は、憲法14条に違反するか。

戸籍制度のない外国人については、日本人とは 社会的事実関係上の差異があって、その取扱いの 差異には合理的根拠があるので、指紋押なつ制度 は、憲法14条に違反しない。 ④指紋押なつ制度は、憲法19条に違反するか。

指紋は指先の紋様でありそれ自体では思想、良 心等個人の内心に関する情報となるものではな いし、指紋押なつ制度の目的は在留外国人の公正 な管理に資するため正確な人物特定をはかること にあるのであって、同制度が外国人の思想、良心 の自由を害するものとは認められない。

前科照会事件(最判昭56.4.14)

事例

弁護士が弁護士会を通じて京都市中京区役所 にAの前科及び犯罪経歴(以下、「前科等」 という)の有無を照会し、同区長がこれに応 じてAの前科等を回答したため、Aは、区長 の回答はプライバシー権侵害に当たるとして 京都市に対し損害賠償と謝罪文の交付を請求 する訴えを提起した。

判例の 見解

①前科等のある者は、これをみだりに公開 されない法的利益を有するか。

前科等は人の名誉、信用に直接にかかわる 事項であり、前科等のある者もこれをみだり に公開されないという法律上の保護に値する利益を有するのであって、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪 人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもない。 ②前科等の照会を受けた市区町村長は、どのような場合に回答をすることができる か。 前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっ ていて、市区町村長に照会して回答を得るの でなければ他に立証方法がないような場合に は、裁判所から前科等の照会を受けた市区町 村長は、これに応じて前科等につき回答をす ることができる。

判例の POINT

①本判決は、「プライバシー」という言葉を用いていない。そのため、本判決が「前科等をみだりに公開されない」という法的利益をプライバシーの内容と考えているかは不明である。 ②本判決は、前科等の照会を受けた市区町村 長が適法に回答できる場合を厳格に解し、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ、犯罪の種類、軽重を問わず、前科等のすべてを報告することは、国家賠償法1条1項の「公権 力の行使」に当たるとした。

関連判例

早稲田大学江沢民講演会名簿提出事件(最判平 15.9.12) 大学主催の講演会の参加者名簿に記載された情報 を参加申込者に無断で警察に開示する行為は不法 行為を構成するか。

参加者名簿に記載された情報を参加申込者に無 断で警察に開示した行為は、大学が開示について あらかじめ参加申込者の承諾を求めることが困難 であった特別の事情がうかがわれないという事実 関係の下では、参加申込者のプライバシーを侵害 するものとして不法行為を構成する。 最高裁は、大学が講演会の主催者と して学生から参加者を募る際に収集した参加申込 者の学籍番号,氏名,住所及び電話番号に係る情 報は,参加申込者のプライバシーに係る情報とし て法的保護の対象となるとした上で、上記のよう に述べている。

住基ネット訴訟(最判平20.3.6)【過去問】23-3 行政機関が住民基本台帳ネットワークシステム (住基ネット)により個人情報を管理、利用等す ることは、憲法13条に違反するか。

【住基ネット】市町村長に住民票コードを記載事 項とする住民票を編成した住民基本台帳の作成を 義務付け、住民基本台帳に記録された個人情報の うち、氏名、住所など特定の本人確認情報を市町 村、都道府県及び国の機関等で共有してその確認 ができる仕組み。 行政機関が住基ネットにより住民の本人確認情 報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報 をみだりに第三者に開示又は公表するものという ことはできず、当該個人がこれに同意していない としても、13条に違反しない。 住基ネットが13条に違反しない理由 として、最高裁は、①住基ネットによって管理、 利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、 性別及び住所から成る4情報に、住民票コード及 び変更情報を加えたものにすぎず、これらは、個 人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはい えないこと、②住基ネットにシステム技術上又は 法制度上の不備があり、そのために本人確認情報 が法令等の根拠に基づかずに又は正当な行政目的 の範囲を逸脱して第三者に開示又は公表される具 体的な危険が生じているとはいえないことを挙げ ている。

ノンフィクション「逆転」事件(最判平 6.2.8)

事例

Aは、文学賞を受賞したノンフィクション作 品「逆転」(著者B)の中で実名を使用され 自己の前科に関する事実が明るみにされたこ とがプライバシー権侵害に当たるとして、B に対し慰謝料を請求する訴えを提起した。

判例の 見解

①前科等のある者は、当該前科等につい て、いかなる法的利益を有するか。 有罪判決を受け、服役したという事実は、 その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる 事項であるから、その者は、みだりに前科等 にかかわる事実を公表されないことにつき、 法的保護に値する利益を有する。この理は、 前科等にかかわる事実の公表が公的機関によ るものであっても、私人又は私的団体による ものであっても変わるものではない。そし て、その者が有罪判決を受けた後あるいは服 役を終えた後においては、一市民として社会 に復帰することが期待されるのであるから、 その者は、前科等にかかわる事実の公表に よって、新しく形成している社会生活の平穏 を害されその更生を妨げられない利益を有す る。 ②前科等にかかわる事実の公表が違法とな らない場合はあるか。

前科等にかかわる事実は、刑事事件ないし 刑事裁判という社会一般の関心あるいは批判 の対象となるべき事項にかかわるものである から、事件それ自体を公表することに歴史的 又は社会的な意義が認められるような場合に は、事件の当事者についても、その実名を明 らかにすることが許されないとはいえない。 また、その者の社会的活動の性質あるいはこ れを通じて社会に及ぼす影響力の程度などの いかんによっては、その社会的活動に対する 批判あるいは評価の一資料として、前科等に かかわる事実が公表されることを受忍しなけ ればならない場合もある。さらにまた、その 者が選挙によって選出される公職にある者あ るいはその候補者など、社会一般の正当な関 心の対象となる公的立場にある人物である場 合には、その者が公職にあることの適否など の判断の一資料として前科等にかかわる事実 が公表されたときは、これを違法というべき ものではない。 ③前科等にかかわる事実を実名を使用して 著作物で公表したことが不法行為を構成す るか否かの判断基準 前科等にかかわる事実を実名を使用して著 作物で公表したことが不法行為を構成するか 否かは、その者のその後の生活状況のみなら ず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意 義、その当事者の重要性、その者の社会的活 動及びその影響力について、その著作物の目 的、性格等に照らした実名使用の意義及び必 要性をも併せて判断すべきもので、その結 果、前科等にかかわる事実を公表されない法 的利益が優越するとされる場合には、その公 表によって被った精神的苦痛の賠償を求める ことができる。

判例の POINT

①本判決は、ノンフィクション作品による前 科等の公表が、不法行為とされる場合がある ことを初めて明らかにした。 ②本判決が示す前科等の公表が違法とならな いための条件(判例の見解②参照)に対して は、前科等に関する情報は公共性が高いこと や表現の自由の重要性を考えると厳格にすぎ るとの批判がある。

関連判例

「石に泳ぐ魚」事件(最判平14.9.24) 自己をモデルとした小説によってプライバシー を侵害されたとして損害賠償と出版の差止めを求 めた事件。 最高裁は、モデル小説の公表により公的立場に ない原告の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害 され、小説の出版によって重大で回復困難な損害 を被らせるおそれがあるとして、損害賠償と出版 の差止めを認めた。

エホバの証人輸血拒否事件(最判平 12.2.29)

事例

キリスト教の宗派「エホバの証人」の信者A は、悪性腫瘍の摘出手術を受けるためB国立 病院に入院したが、その際、宗教上の信念か ら、いかなる場合にも輸血を拒否することを 担当のC医師に伝えた。B病院は、手術を受 ける患者が「エホバの証人」の信者である場 合、できる限り輸血をしないことにするが、 輸血以外に救命手段がない場合には、患者や その家族の同意がなくても輸血をするという 方針を採っていたが、その方針をAに伝えな かった。その後、Cは、Aの手術を実施した が、輸血をしないとAを救うことはできない と判断し、Aの同意を得ずに輸血した。これ に対し、Aは、自己決定権を侵害されたとし て、国とCを相手取って不法行為に基づく損 害賠償を請求した。

判例の 見解

①輸血を伴う医療行為を拒否する意思決定 をする権利は、人格権の内容といえるか。

患者が、輸血を受けることは自己の宗教上 の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為 を拒否するとの明確な意思を有している場 合、このような意思決定をする権利は、人格 権の一内容として尊重されなければならな い。そして、Aが、宗教上の信念からいかな る場合にも輸血を受けることは拒否するとの 固い意思を有しており、輸血を伴わない手術 を受けることができると期待してB病院に入 院したことをC医師が知っていたなど本件の 事実関係の下では、C医師は、手術の際に輸 血以外には救命手段がない事態が生ずる可能 性を否定し難いと判断した場合には、Aに対 し、B病院としてはそのような事態に至った ときには輸血するとの方針を採っていること を説明して、B病院への入院を継続した上、 C医師らの下で本件手術を受けるか否かをA 自身の意思決定にゆだねるべきであった。 ②国とCは、Aに対し不法行為責任を負う か。

C医師は、本件手術に至るまでの約一か月 の間に、手術の際に輸血を必要とする事態が 生ずる可能性があることを認識したにもかか わらず、Aに対してB病院が採用していた右 方針を説明せず、輸血する可能性があること を告げないまま本件手術を施行し、右方針に 従って輸血をしたのである。そうすると、本 件においては、C医師は、右説明を怠ったこ とにより、Aが輸血を伴う可能性のあった本 件手術を受けるか否かについて意思決定をす る権利を奪ったものといわざるを得ず、この 点において同人の人格権を侵害したものとし て、同人がこれによって被った精神的苦痛を 慰謝すべき責任を負うものというべきであ る。そして、また、国は、C医師らの使用者 として、Aに対し民法715条に基づく不法行 為責任を負うものといわなければならない。

判例の POINT

①本判決は、輸血を伴う医療行為を拒否する 意思決定をする権利が人格権の内容をなすこ とを認め、輸血に関する医師の説明義務違反 によって人格権侵害の不法行為が成立すると した。 ②不法行為が成立する理由について、原審で ある控訴審判決(東京高判平10.2.9)が、手 術に必要な患者の同意は、各個人が有する自 己の人生のあり方(ライフスタイル)は自ら が決定することができるという自己決定権に 由来すると明確に述べているのに対し、最高 裁は、この点を明らかにしていない。そのた め、患者が宗教上の理由以外の理由で輸血を 拒否した場合等にも本判決が妥当するかは議 論のあるところである。

第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

この回では、第12回で学んだ幸福追求権と並ぶ人権の基本中の基本、「法の下(もと)の平等」について解説します。

「人間は生まれながらにして平等だ」という思想は、古くギリシア時代に起源を持ちますが、憲法において保障されるまでには長い年月がかかっています。
平等という考え方を法としてはっきりと示すことを「法の下の平等」と言いますが、アメリカ独立宣言やフランスの人権宣言で、やっと平等が明文化され「法の下の平等」が近代憲法の基本原則となったのです。
さて、日本ではどうなのかと言うと、明治維新で江戸時代の士農工商制度が廃止され、四民平等になったものの、明治憲法下では、貴族は特権をもち、男尊女卑もしかり、外国人の差別的取扱いも憲法に違反しないとされていました。
日本においての本当の意味の平等権は、日本国憲法の制定で保障されるようになったのです。そして、日本国憲法は数カ所で平等権の大切さを謳っていますが、その最も中核なる条文といえば、第14条です。

この条文では第1項で法の下の平等を宣言していますが、まず「法の下に」について、少し補足したいと思います。
法の下には2つの考え方があって、1つは、「法を執行して適用する行政権や司法権が国民を差別してはならない」という法適用の平等のみを意味する考え方です。
しかし、法の内容自体に不平等があると、それを平等に適用しても結果として平等とはならないことから、もう1つの「法の下に」として、法適用の平等のみならず、「法そのものの内容も平等の原則にしたがって定立されたものであるべきだ」との考え方があります。また、こちらの考えが、第14条の正しい解釈とされています。
すなわち第14条では、法の適用の平等だけでなく、法の内容の平等も保障されているのです。

ここで、もう一つ考えなければならないのが、平等の概念です。憲法で保障されている平等とは、絶対的な平等ではなく、相対的な平等であると言われています。相対的平等とは、差別するべき合理的な理由がないのに差別してはならないということで、同一の事情と条件の下では均等に取扱うことを意味しています。
ということは、事柄の性質に応じて合理的な差別的取扱いを行うことは、憲法に反していないとしているのです。
では、いったい合理的な差別とは何でしょう。
最高裁判所は、合理的な差別の具体例として、
①強姦罪(男性だけが処罰されるのは男女の生物学的な構造の差に基づくとともに実際にも男性が女性に対して行うのが常であるから)
②定年制(終身雇用制度の下では、若年者に雇用の機会を与え、企業の若返りを図る合理的な制度であるから)
などを挙げています。
また、第14条の第1項では、人種・信条・性別・社会的身分・門地を列挙して差別してはいけないと謳っていますが、これは、例を挙げたにすぎない(例示的と言います)ので、これ以外の不合理な差別扱いにも、第14条の保障が及びます。なお、門地は「もんち」と読み、家柄のことです。

Ⅰ.合理的な差別と認められた例
この事件は、行政での取扱いが合理的な差別であると認められた事件です。
ある女性が、前夫から繰り返しドメスティックバイオレンス(DV)を受けたことで離婚し、半年後に現夫と再婚しましたが、離婚が成立する直前に現夫との間に女児を妊娠したので、離婚後にすぐ再婚を希望したものの、民法第733条の規定により再婚できませんでした。この女性は、民法第733条の規定は、男性に再婚禁止期間がないのと比べ、合理的な理由がなく女性を差別しており、精神的な苦痛を受けたと主張して、民法第733条の規定を不服として、国に165万円の損害賠償を請求した事件です。

民法第733条では、
「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」
と規定していますが、これは、再婚後に生まれてくる子の父を前夫の子とするか、現父の子とするかの問題と言えます。判例では、子の父親をはっきりさせるために民法第733条の規定は、法の下の平等を侵すことにはならないとしていますが、DNA鑑定などの進んだ今日では、両性の本質的平等に抵触するという指摘もあり、今度も注目される判例です。

Ⅱ.合理的な差別とは認められなかった例
次の事件は、非合理的な差別であるとして、後に刑法の条文が削除される契機となった事件です。
父親によって性的虐待や父の子を何人も産むという生活を強いられ、監禁されていたある女性が、口論の末、実父を絞殺した事件で、通常の殺人罪より尊属殺人罪の量刑が重いことは、法の下の平等に反しないかが争われた事件です。

刑法第200条の規定の根底には、子の親に対する道徳的義務を特に重視した自然法に属する考え方が含まれています。当時は尊属殺人罪の場合では無期懲役が最も軽い罰でした。事例のように、常道を逸した状態に子が置かれた場合でも、無期懲役で情状酌量による減刑を行っても、執行猶予が付く3年以下の量刑にはなり得ず、刑法第200条自体が合理的ではないということになったのです。
この刑法第200条は、当時の国会が改正を議決しなかったため、刑法が文語体から口語体に変更された1995年(平成7年)の改正刑法において、傷害罪等他の尊属加重刑罰とともに削除されました。
また、この事件は、最高裁判所が違憲立法審査権を発動し、既存の法律を違憲と判断した最初の判例となったことでも有名です。
このほかの憲法第14条をめぐる裁判について、主なものを下表にまとめます。

今回の法の下の平等は、必ず行政書士試験で出題されるといっても過言でない内容です。判例集などを使って、この内容を確認してみることをお勧めします。
東京都管理職選考試験事件(最大判平 17.1.26)

事例

看護師として東京都に採用された韓国籍のA は、課長級の管理職選考試験を受験しようと したところ、日本国籍でないことを理由とし て拒否された。そこで、Aは、受験資格の確 認と慰謝料を求めて訴えを提起した。

判例の 見解

①憲法は、外国人が公権力行使等地方公務 員(住民の権利義務を直接形成し、その範 囲を確定するなどの公権力の行使に当たる 行為を行い、若しくは普通地方公共団体の 重要な施策に関する決定を行い、又はこれ らに参画することを職務とする地方公務 員)に就任することを想定しているか。

公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、 住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あ るいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすな ど、住民の生活に直接間接に重大なかかわり を有するものである。それゆえ、国民主権の 原理に基づき、国及び普通地方公共団体によ る統治の在り方については日本国の統治者と しての国民が最終的な責任を負うべきもので あること(憲法1条、15条1項参照)に照 らし、原則として日本の国籍を有する者が公 権力行使等地方公務員に就任することが想定 されているとみるべきであり、我が国以外の 国家に帰属し、その国家との間でその国民と しての権利義務を有する外国人が公権力行使 等地方公務員に就任することは、本来我が国 の法体系の想定するところではない。 ②地方公共団体が日本国民である職員に 限って管理職に昇任することができるとす る措置は、憲法14条1項に違反するか。

地方公共団体が、公権力行使等地方公務員 の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を 積むために経るべき職とを包含する一体的な 管理職の任用制度を構築した上で、日本国民 である職員に限って管理職に昇任することが できることとする措置を執ることは、合理的 な理由に基づいて日本国民である職員と在留 外国人である職員とを区別するものであり、 憲法14条1項に違反しない。

判例の POINT

①従来、行政実務では、「当然の法理」(公 権力の行使又は国家意思の形成への参画に携 わる公務員は、日本国籍を有しなければなら ないという法理)が存在したが、本判決は、 この法理を採用しているわけではない。 ②14条1項に関する違憲審査基準として は、学説上、合理性の基準、厳格な合理性の 基準、厳格な審査基準の3つが論じられてい るが、本判決は、3つの中で一番緩やかな合 理性の基準(立法目的を達成するために一般 と異なる取扱いをすることが著しく不合理で ある場合に限り、その取扱いを違憲とする基 準)を採用して、東京都の管理職任用制度を 合憲と判断した。 ③Aは、22条1項(職業選択の自由)違反 も主張したが、これに対する最高裁の応答は なかった。

チェック判例

憲法22条は外国人の日本国に入国することに ついてはなんら規定していない。このことは、国 際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自 由裁量により決定し得るものであって、特別の条 約が存しない限り、国家は外国人の入国を許可す る義務を負わないものであることと、その考えを 同じくする(最大判昭32.6.19)。

わが国に在留する外国人は、憲法上、外国へ 一時旅行する自由を保障されているものではな く、したがって、外国人の再入国の自由は、憲法 22条により保障されない(最判平4.11.16)。

社会保障上の施策において在留外国人をどの ように処遇するかについては、国は、特別の条約 がない限り、その政治的判断により決定すること ができ、その限られた財源の下で福祉的給付を行 うに当たり、自国民を在留外国人より優先的に扱 うことも許される。したがって、障害福祉年金の 支給対象者から在留外国人を除外することは、立 法府の裁量の範囲に属する事柄であって、憲法25 条に違反しない(最判平1.3.2)

登録事項確認制度(外国人に対し外国人登録 原票に登録した事項の確認の申請を義務付ける制 度)は、本邦に在留する外国人の居住関係及び身 分関係を明確ならしめ、もって在留外国人の公正 な管理に資するという行政目的を達成するため、 外国人登録原票の登録事項の正確性を維持、確保 する必要から設けられたものであって、その立法 目的には十分な合理性があり、かつ、その必要性 も肯定することができる。そして、確認を求めら れる事項は、職業、勤務所等の情報を含むもので あるが、いずれも人の人格、思想、信条、良心等 の内心に関わる情報とはいえず、同制度は、申請 者に過度の負担を強いるものではなく、一般的に 許容される限度を超えない相当なものであると認 められる。右のような立法目的の合理性、制度の 必要性、相当性が認められる登録事項確認制度 は、公共の福祉の要請に基づくものであって、憲 法13条に違反しない(最判平9.11.17)

いやしくも人たることにより当然享有する人 権は不法入国者といえどもこれを有する (最判昭 25.12.28)

非嫡出子相続分規定事件(最大決平 7.7.5)

事例

被相続人の子Aは、遺産分割において、非嫡 出子であることを理由に相続分に差を付けら れたため、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分 の1と定めている民法900条4号但書は、憲 法14条1項に違反し無効であると主張し た。

判例の 見解

①民法900条4号但書の立法理由 民法900条4号但書の立法理由は、法律上 の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊 重するとともに、他方、被相続人の子である 非嫡出子の立場にも配慮して、非嫡出子に嫡 出子の2分の1の法定相続分を認めることに より、非嫡出子を保護しようとしたものであ り、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を 図ったものである。 ②民法900条4号但書は、憲法14条1項に違 反するか。

現行民法は法律婚主義を採用しているので あるから、民法900条4号但書の立法理由に も合理的な根拠があるというべきであり、本 件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2 分の1としたことが、立法理由との関連にお いて著しく不合理であり、立法府に与えられ た合理的な裁量判断の限界を超えたものとい うことはできないのであって、本件規定は、 合理的理由のない差別とはいえず、憲法14 条1項に反するものとはいえない。

判例の POINT

本決定は、民法900条4号但書の立法目的 (法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整)自 体には合理性があることを認めた上で、その 目的と目的を達成するための手段(非嫡出子 の法定相続分は嫡出子の2分の1)との関係 が著しく不合理か否かを問題とし、著しく不 合理ではないとの結論を導いている。これ は、民法が法律婚主義を採用している以上、 婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係 から出生した非嫡出子との区別が生じ、法定 相続分につき前者の立場を後者より優遇する ことに合理的根拠があるとの前提に立つもの である。

関連判例

再婚禁止期間の合憲性(最判平7.12.5) 離婚した女性に6か月の再婚禁止期間を設けてい る民法733条は、憲法14条1項に違反するか。

最高裁は、民法733条の立法理由が、「父性の推 定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生 を未然に防ぐことにある」とした上で、同条を改 廃しないという立法不作為は、違憲ではないとし た。

尊属殺重罰規定違憲判決(最大判昭48.4.4) 尊属殺の法定刑を死刑又は無期懲役に限ること は、憲法14条1項に違反するか。

最高裁は、尊属に対する尊重報恩という尊属殺 人罪の立法目的は合理的であるが、死刑又は無期 懲役刑という法定刑は、立法目的達成のため必要 な限度を遥かに超え、普通殺(刑法199条)の法定 刑 (*) に比べて著しく不合理な差別的取扱いをす るものであるから、憲法14条1項に違反して無 効であると判示した。 (*)死刑又は無期もしくは5年以上の懲役。

サラリーマン税金訴訟(最大判昭 60.3.27)
事例

サラリーマンAは、所得税法の規定は、事業 所得者に比べて給与所得者に著しく不公平な 所得税負担を課すもので憲法14条1項に違 反すると主張した。

判例の 見解

①憲法14条1項の趣旨 憲法14条1項は、国民に対し絶対的な平 等を保障したものではなく、合理的理由なく して差別することを禁止する趣旨であって、 国民各自の事実上の差異に相応して法的取扱 いを区別することは、その区別が合理性を有 する限り、何ら右規定に違反するものではな い。 ②租税法の合憲性判定基準 租税は、今日では、国家の財政需要を充足 するという本来の機能に加え、所得の再分 配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能 をも有しており、国民の租税負担を定めるに ついて、財政・経済・社会政策等の国政全般 からの総合的な政策判断を必要とするばかり でなく、課税要件等を定めるについて、極め て専門技術的な判断を必要とする。したがっ て、租税法の定立については、国家財政、社 会経済、国民所得、国民生活等の実態につい ての正確な資料を基礎とする立法府の政策 的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁 判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せ ざるを得ない。そうであるとすれば、租税法 の分野における所得の性質の違い等を理由と する取扱いの区別は、その立法目的が正当な ものであり、かつ、当該立法において具体的 に採用された区別の態様が右目的との関連で 著しく不合理であることが明らかでない限 り、憲法14条1項の規定に違反しない。

判例の POINT

①本判決は、租税法の合憲性判定基準として 「合理性の基準」が妥当することを明らかに した。 ②本判決は、租税法の定立は極めて技術的・ 専門的であることから、国会に広範な立法裁 量を認めた。

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