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2-1-2 法令科目 行政法 行政法の一般的な法理論2

今回は、行政法総論をお話しします。便宜的に行政法総論としましたが、あくまで、行政法における指導原理などの一般的内容です。
①行政とは何か、②法律による行政の原理、③行政法の法源――について解説します。

Ⅰ.行政とは何か
もう一度、行政とは何かについて考えてみましょう。憲法の学習でもお話ししましたが、行政は国家作用から立法、司法を除いたものです。
行政の定義がはっきりしていないのは、ゴミ処理のようにとても身近なことから外交や国防などまで、行政の範囲はとても広く、行政が行うべきことが多種多様すぎて、これらをもれなく定義することができないからと言えます。
行政を学問として学ぶとき、ある行政作用をどう扱うかについて、その作用によって
①規制行政
②給付行政――の2つに分類することがあります。
規制行政とは、国民の権利・利益を制限する行政活動のことで、例えば、租税の賦課・徴収、建物の建築規制――などがこれに当たります。
一方、給付行政とは国民に一定の権利・利益を与える行政活動のことで、例えば、補助金や生活保護費の支給、公共施設の提供、道路・公園などの設置・管理――などが該当します。
この分類は、行政の適法性の判断(法律の根拠の要否や行政庁の裁量の広さ)目安と関係します。
例えば、行政による国民の権利の侵害の防止や国民への福祉の実現の面からみると、①の規制行政は、国民の権利の侵害につながるので、はっきりとした法律の根拠が必要ですし、行政裁量は狭くなります。これに対し②の給付行政は、必ずしも法律の根拠は必要ないし、行政裁量も広く、その作用が違法につながることも少ないと言えます。
もっとも、この区分は絶対的なものではありません。それは、ある国民にとって利益ある行政作用が、他の国民にとっては侵害に当たる場合があるからです。例を挙げれば、建築確認が出てビルが建築された場合に、日照や景観の面で近隣住民に不都合が生じた場合などです。
このような場合には、行政作用の効果は、国と国民の関係だけでなく、国民と国民の関係の利益調整にも及ぶこととなり、それが問題となる場合があります。

Ⅱ.法律による行政の原理
行政法は、数多い行政法規の総論、通則を明らかにするものとお話ししましたが、行政法の重要な原則は「法律による行政の原理」です。法律による行政の原理とは、行政活動は法律の定めるところ、法律に従って行わなければならない――という原則です。
この法律による行政の原則の意義には、①自由主義的意義、②民主主義的意義――の2つあります。①自由主義的意義とは、公権力の国民生活に対する恣意的介入を防ぎ、国民の自由・権利の保護を図ること、②民主主義的意義は、行政活動を民主的コントロールの下に置くこと――です。
そして、法律による行政の原理の内容は
①法律の優位
②法律の留保――の2つです。
①法律の優位とは、法律の根拠があるからといって、いくらでも自由に行政活動を行えるわけではなく、あくまで、行政活動は法律に触れない範囲で、法律に従って行われなければならないということ、②法律の留保とは、行政活動には法律の根拠が必要ということ――です。
国民の権利や自由を守るためには、国民の代表機関である国会が制定した法律によって権利や自由のルールを制定すべきであることは、憲法でも学習しましたね。これは、行政は、国会と法律を通じて国民がコンロトールしていることにほかなりません。つまり、国民の権利と自由が確保されていると言えます。
次に、行政法の一般原則を紹介します。主な原則は、5つです。
①信義誠実の原則(信義則)
②権利濫用の禁止の原則
③比例原則
④平等原則
⑤アカウンタビリティの原則
①の信義則は、民法1条2項に定められていましたね。相互に相手方の信頼を裏切らないよう行動すべきであるという原則で、行政上の法律関係にも適用されることがあります。
②の権利濫用の禁止の原則も、民法1条3項に定められていました。この原則も行政庁と国民の間の行為にも念頭に置かれています。
③の比例原則とは、目的と手段の均衡を要求する法原則です。不必要な規制や過剰な規制を禁ずるもので、ある目的を達成するために規則効果は同じであっても、規制される利益に対する制限の程度がより少ない他の手段が存在する場合には、その規制は許されないという原則です。
④の平等原則とは、行政機関が合理的な理由なく、国民を不平等に取り扱ってはならないという原則です。
⑤のアカンタビリティの原則とは、情報公開法の1条に規定され、政府等の諸活動を国民に説明する責務がまっとうされなければならないという比較的新しい原則です。
ところで、法律による行政の原理は①法律の優位と②能率の留保――と言いましたが、2つの原則の適用範囲は異なります。
行政活動には常に法律の根拠が必要かといえば、必ずしもそうではない場合があるのです。
法律の根拠が必要なのは、国民の権利の侵害を防ぐためなので、国民の権利や自由とは関係ない行政活動や、侵害の及ぶ可能性の少ない行政活動については、必ずしも法律の根拠は必要としないと考えられています。その理由は、いちいち法律の根拠を必要とすると柔軟で急を要する行政活動の遂行に支障を来す場合もあるからです。
具体的には、警察や消防などの急を要する活動や、ゴミ処理などを考えていただければ分かると思います。法律に縛られて円滑に行政活動が行われないと、かえって国民生活に支障が出てしまいますね。
そこで、行政活動のうちの給付行政の一部や、行政内部における事務連絡、行政から事実上の国民への働きかけである行政指導などは、法律の根拠はいらないと言われています。
ただし、法律の根拠がいらない行政活動も、法律に違反することは許されませんので、法律優位の原則は常に働いていることになり、当てはまる範囲は、法律優位の原則が法律留保の原則よりも広いと言えます。

Ⅲ.行政法の法源
行政法は憲法と同じく公法に分類されます。これは、民法や商法などの私法に対する分け方ですが、公法と私法がまったく別個独立して存在しているわけではないと考えられています。国・公共団体と国民との間に適用される特別の原理を採用した法律が採用された場合、その特別の部分を公法と言い、行政法はその特別の部分を取り扱っている特則と考えてください。
その特則を大きく分けると①成文法と②不文法――に分けられます。成分法源としては、憲法、条約、法律、命令、条例――などが挙げられます。
不文法としては、①慣習法、②判例法、③法の一般原則――があります。
①の慣習法は、前述したように行政の原理との関係で国会が制定したわけではない法を法源としているので、行政の原理と異なっていると考えられますし、実際にも私法ほどの多い例を持ちません。でも、例えば、法令の公布が官報で行われていることなどは慣習法によっています。なお、行政庁による長年にわたる取扱いが法的に確信を得ること、つまり慣習によるもののことを先例法と呼ぶことがあります。
次に②の判例法は、判例が法解釈により明らかにされた法規範であり、特に最高裁判所の判決によって形成され、重要な役割を果たしています。それは、判例はたとえ成文法であっても曖昧なところや条文に表われていないところも白黒はっきりつけ、事件処理の方法を明らかにしているからです。つまり、判例は法の不備を補っているものだからです。
③の法の一般原則とは、一般社会の正義感で、こうあるべきと認められる条理や理念のことで、行政法にも適用されます。
つまり、行政権が濫用された結果行われた行政活動を違法とする判決や、緊急事態に対応するためにやむを得ず採用された国民の自由を制限する行政措置については、法律の根拠がなくても適法となることがあるのです。
行政権の濫用については、後に解説する行政行為のときに取り上げます。
しかし、時代の推移や社会の変遷で、法の一般原則も推移・変遷することも覚えておきましょう。

行政作用法は、行政と私人の法関係に関する法律の集まりです。

行政活動の適法・違法を決める基準がはっきりしていれば、行政の自主規制によって国民の権利が侵害されることを予防できるだけでなく、行政が国民の権利を違法に侵害したときに、国民が救済を求めることもできます。
法律は、罪を犯した者に対して刑罰を科すことが目的ではなく、まず、事前に行ってはいけないことをはっきりさせて、法に反する行為を予防することが目的です。ですから、行政作用法は、国や公共団体が守るべきルールをはっきりさせている――と言えるのです。
また、行政法規は、人権の侵害がないようにするのは当然で、さらに、国民に必要な行政サービスの提供に便利になるようなものにしなければなりません。
★行政作用法の分類
行政作用法は、さまざまな行政活動の内容に応じていくつかに分類されます。それぞれの詳細については、後の回で個々に解説していくことになりますが、ここではその名称とそれぞれの関係を覚えましょう。

行政活動を行う上では、まず、守るべき基準や方針を定めることが必要です。
そのために、行政は法を整備したり、計画を立てたりしますが、
①法を整備することを行政立法
②計画を立てることを行政計画――と呼びます。
行政立法や行政計画によって基準設定が行われた場合に、これに従って必要な事業が執行されるわけですが、事業を執行した結果、国・公共団体と国民との間で、行政目的を達成するのに必要な、さらなる法律関係が発生したり、変更されたり、消滅したりします。
このうち、
③法律関係を一方的に決定するものを行政行為
④国民の同意の上で法律関係を決定するものを行政契約――と言います。
行政行為は、行政活動の中で多用されるだけでなく、国民の権利義務に与える影響が大きいので、行政作用の中でも中心的なテーマです。
一方、行政契約は、国民の同意が条件となる緩やかな方法です。このため、一般に国民の利益を害するおそれは小さいと言えますが、実際には行政活動の中で次第に多用されるようになってきて、権利侵害などの問題が生じています。
また、行政活動の中には、法律の発生や変更が起きるわけではないけれど、
⑤行政指導――と言って行政から国民に対して事実上の働きかけが行われることがあります。
例を挙げれば、高層マンションを建築する際に、国や地方公共団体から、近隣住民の承諾を求められたりすることです。
行政指導には、法律関係を変動させる効果はありませんが、これも多用されることでさまざまな弊害が生じるおそれがあります。そこで、行政指導は、行政手続法という法律で規制されています。
また、適法に国民に義務が発生するのに、国民がこれを守らないこともあります。行政としても、迅速な公共の福祉の実現のためには、自発的な義務の履行を辛抱強く待てません。
そのような場合、やむを得ず強制的な手段によって、義務の履行を強制することがあります。
例えば、違法な建物が撤去されずに放置されたままになっていて、今にも倒壊しそうな場合、国民を危険にさらすことになりますので、国や公共団体は強制的に建物を撤去する必要があります。
このような建物の撤去などの義務を強制的に実現させる方法が⑥行政上の強制手段です。
強制手段がとられるのは、国民に義務が発生する場合のうち、特に強制をすることがやむを得ない場合のみです。この強制は私人間の強制とは異なり、裁判所の手を借りることなく行えることが特徴です。
以上のように様々な行政活動が行われますが、それぞれの行政活動は一つひとつの行為でなりたっているわけではありません。行政立法や行政計画に基づき、行政行為が行われるという流れは、複数の行為でなりたっています。このような、行政行為の連なりを行政手続と言います。先ほど出てきた行政手続法は、この行政手続きの一般法で、行政作用の通則的な法律です。

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