1
以下の記述は、ある用語の具体例ならびに説明である。その用語としてふさわしいものを選べ。
土地の構成部分となって土地の所有権に吸収される物。明認方法を施すことにより,独立の物としての取引が可能な物。権原ある者が附属させると,その者の所有に属する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
不動産に従として付合した物
(正解) 不動産に従として付合した物
民法242条
「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。」
以下は、Wikipedia「付合」からの抜粋。
「つまり、ある水田に無関係な者が勝手に種を播いた場合、その苗は水田と一体になったとして(=附合して)水田の所有者の所有物となるが、当該水田を借り受けて(=権原によって)種を播いた場合には、その苗は種を播いた者の所有物になる、ということである。」
次に、Wikipedia「対抗要件」からの抜粋。
「明認方法とは、立木の皮を削り名前を書く等、土地とは独立した物であることを外部から認識できる状態にするものである。稲立毛などについても用いられる。」
つまり、水田の苗が育って稲立毛になっている所に、例えば「この稲は○○のものである」と立札を立てることで(明認方法)、その稲立毛の所有権を第三者に対抗できる、ということですね。
よって設問の答えは、「不動産に従として付合した物」となります。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記条文です。
「不動産に付加して一体となっている物」について
これを通常「付加一体物」と呼んでおり(民法第370条)、抵当権の効力がこれに及びます。
独立して取引ができないことが「従として附合したもの」との主な違いです。
この付加一体物とは、具体的には、土地の附合物、建物の附合物、建物の従物、土地の従物である。
1)附合物
附合物とは不動産に附合した動産をいう(民法第242条)。具体的には、分離できない造作は建物の附合物であり、取り外しの困難な庭石は土地の附合物である。従って附合物は「構成部分」と言い換えることもできる。
なお、権原のある者が附合させた物は、附合物であっても、抵当権の効力は及ばない。
[自説の根拠]自説の根拠は、賃貸経営ナビ。
2
物上代位について、適切か否か答えよ。
判例によれば,債務者が第三者に対して有する賃料債権につき,債務者の一般債権者が差押えを行ったとしても,抵当権は優先弁済権を第三者に対抗できるから,配当要求の終期までに設定登記をして物上代位の手続をとれば,抵当権者は物上代位権を行使して,一般債権者に優先することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
そうですね。
たしか、本問事例だと、第三債務者への転付命令の到達と抵当権登記の先後によるのではないかと記憶しています。
最判(一小)H10.3.26 平成6(オ)1408号事件(民法判例百選Ⅰ〔第五補正版〕88事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/61075C59223FF93D49256A8500311D8F.pdf
より抜粋。
—
債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ、右の差押命令の第三債務者への送達が抵当権者の抵当権設定登記より先であれば、抵当権者は配当を受けることができないと解すべきである。
—
…ということで、見解で正解ですね。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
債権差押命令の申し立てと同時に、または債権差押命令が発令されたあとに、転付命令を申し立てることができるそうです。つまり、「差押命令」と「転付命令」は別物ですよね。
本問で転付命令は申し立てられていません。
hitoshiさんが挙げられた判例の「差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決せられ」がポイントと考えました。
「配当要求の終期までに」ではなく、「差押命令の第三債務者への送達前に」抵当権設定登記をすることができれば、抵当権者は一般債権者に優先できるということでは。
[自説の根拠]①最判平成10年3月26日
②「差押命令」と「転付命令」については以下を参照させていただきました。
http://www.daishoyasan.jp/rc/garnishment_action/Chapter-0113.html
3
譲渡担保について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
債務を弁済しないときには被担保債務の代物弁済として債務者所有の不動産の所有権を債権者に確定的に帰属させる旨の合意があっても,目的物の評価額若しくは処分額が被担保債権額を上回る場合には,債権者に清算金支払義務が生じ,債務者は,債権者の目的物引渡請求に対して,清算金の支払との同時履行を主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判(一小)S62.2.12 より抜粋。
「帰属清算型の譲渡担保においては、債務者が債務の履行を遅滞し、債権者が債務者に対し目的不動産を確定的に自己の所有に帰せしめる旨の意思表示をしても、債権者が債務者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、債務者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができる」
つまり、不動産評価額 > 債務額 の場合には、債権者が清算金を支払わない間、債務者は弁済により譲渡担保権を消滅させる機会を失わないことになるので、それを言い換えると設問枝のような表現になります。よって○。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
hitoshiさんのコメントは、帰属清算型において目的物が処分されていない場合のものです。
不動産評価額 > 債務額 であっても、譲渡担保目的物が第三者に処分されてしまうと、清算金が支払われていなくとも、もはや債務者は弁済して譲渡担保権を消滅させることはできません。債権者に清算金の支払いを請求しうるのみです。念のため。
[自説の根拠]参考:最判平成6年2月22日
帰属清算型
債権者が目的物を取得し、目的物の適正な価額と被担保債権の価額との差額分を債務者に返還して清算する方法
処分清算型
債権者が目的物を第三者に処分して、その代価の中から債権者が優先弁済を受け取り、被担保債権の価額との差額分を債務者に返還して清算する方法
いずれの類型にしても譲渡担保の実行においては常に清算が必要となる。この精算金の支払いと担保目的物の引渡しは同時履行の関係に立つものと解され、精算金が支払われるまで担保権設定者には留置権が認められる。
[自説の根拠]自説の根拠:Wikipedia
4
次の記述について、適切か否か答えよ。
ある動産に留置権を取得した者は,その占有を第三者に奪われた場合でも,その第三者に対して留置権に基づく返還請求を行うことができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
留置権者が占有を奪われたときは、留置権は消滅し、留置権に基づく返還請求権は認められない。
但し
、占有回収の訴えによって占有を回復した場合は、留置権は消滅しない。
[自説の根拠]民法302条
民法203条但書
留置権とは例えば
時計の修理を頼まれた時計店は、修理を頼んだ人が代金を支払うまで時計の引き渡しを拒むことができるという権利です。
したがって、「その占有を第3者に奪われた場合」には、留置物の占有が失われるため、留置権が消滅し、留置権を行使できません。
よって、留置権に基づく返還請求もできなくなります。
が、占有者による「占有回収の訴え」を提起することで、占有は消滅しません。
つまり、「留置権に基づく返還請求」はできませんが、「占有回収の訴え」はできるということです。
[自説の根拠]民法200条・203条・302条1項
占有回収の訴え(200条)
占有者の占有が、他人に奪われたこと
(目的物は不動産・動産)
行使期間…侵奪の時から1年
留置権に基づく返還請求は、留置権を有する者のみに請求可能。それ以外の第三者に対しては、占有回収の訴えになる
すみません。3/5のコメントは誤りです。
(留置権に基づく返還請求権はありません。)
参考までに(質権比較知識)
質権において、質権に基づく返還請求は、質権設定者に対してのみ請求可能。それ以外の第三者に対しては、占有回収の訴えになる
5
Aは,その所有する甲土地をBに売却したが,その直後に重ねて甲土地をCに売却し,さらにCは直ちにDに転売した。甲土地の登記名義は,A・C・Dの合意に基づき,Aから直接にDに移転された。
この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
背信的悪意者Cにも甲土地の所有権が帰属するという考え方を採れば,AからBとCに二重譲渡があったことをDが知っていても,それだけでは,登記をしていないBは甲土地の所有権取得をDに対抗することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判(三小)H8.10.29 民集50巻9号2506頁より抜粋。
「所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。けだし、(一) 丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではなく、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないのであって、また、(二) 背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらないとして民法一七七条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対してその登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許されないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断されるべき事柄であるからである。」
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
判例は重要ですが、もっと重要な根拠条文をあわせて載せて欲しいです。
民法第177条 【不動産に関する~その登記をしなければ、第三者に対抗することはできない】
背信的悪意者は177条の第三者にはならないが、たんなる悪意者であるだけならば第三者となる。
この場合Dは単なる悪意者。
判例によると背信的悪意者との売買契約自体は有効となっている。
この問題では分かりやすいように
〈背信的悪意者Cにも甲土地の所有権が帰属するという考え方を採れば〉
とまで書いてあるので、単なる二重契約と同じで登記の有無によって優劣を定める。
6
Aは,その所有する甲土地をBに売却したが,その直後に重ねて甲土地をCに売却し,さらにCは直ちにDに転売した。甲土地の登記名義は,A・C・Dの合意に基づき,Aから直接にDに移転された。
この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
背信的悪意者Cは甲土地の所有権を取得することができないという考え方を採れば,DがAからBとCに二重譲渡があったことを知らずに登記をした場合でも,BはDに甲土地の所有権取得を対抗することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
以下省略
との事から、【背信的悪意者Cは甲土地の所有権を取得することができないという考え方を採れば】というのは、原判決の事と考えればしっくりくるのではないでしょうか?
大事なことを忘れてました。【最判(三小)H8.10.29 民集50巻9号2506頁】の全文です。失礼いたしました。
[自説の根拠]最判(三小)H8.10.29 民集50巻9号2506頁
「背信的悪意者Cは甲土地の所有権を取得することができない」ので、
→Cは無権利者。 Cが無権利であれば、Dは承継取得できない→ Dが無権利である以上、登記は無効であり、Bは所有権を対抗できる。
[自説の根拠]議論も重要でしょうが、行書にはまず正しい解説が優先と考えます。
7
根抵当権について、適切か否か答えよ。
根抵当権が優先的に弁済を受ける限度は極度額によって定まっており,後順位担保権者や一般債権者は,どのような債権が担保されるのかについては利害関係を有しないから,被担保債権の範囲の限定は,もっぱら抵当権設定者の保護を目的としている。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
被担保債権の範囲の限定が無制限だとすると、根抵当権者は好き勝手に極度額まで不良債権を買い漁る事も可能となり、後順位の債権者にとって害となります。
この包括根抵当禁止は、設問文の様に「専ら根抵当権設定者の保護」を目的とする趣旨ではない為、誤りですね。
[自説の根拠]民法第398条の弐-2項
8
不動産物権変動について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
Aは,Bの詐欺により,その所有する土地をBに売り渡し,所有権移転登記をした場合,Aが売買契約を取り消す意思表示をした後,BがこれをCに転売し登記を経由したとしても,Cは,Aに対し,所有権の取得を対抗することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
詐欺による取消しの効果は、その登記をしなければ、取消後不動産を取得して登記を経た第三者に対抗できないのでしたね(大判S17.9.30民集21巻911頁)。
これを一般化すると、「取消・解除による復帰的物権変動は、取消・解除後の第三者に対し、登記なくして対抗できない」ということになります。
[自説の根拠]参考:民法第177条 – Wikibooks
http://ja.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC177%E6%9D%A1
本試験前1週に何やってんだか。。。俺呑みすぎw
詐欺取消前の第三者は、善意悪意関係なく、権利保護要件としての登記(民法177条)や占有(民法192条)を権利取得時に取得していれば、取消権者(本人・・・被欺モウ者)に所有権取得を対抗可。
同後の第三者は、善意悪意関係なく、対抗要件を本人より早く具えれば対抗可。
wikiの記載内容の是非まで調べるのは極めて面倒なので、常識を述べた次第。判例ね。wikiにないのかね、この超有名事例
fujiyama さん
一応突っ込んでおくと、この設問肢、不動産物権変動の問題なので、即時取得(民法192条)は観念できないですね。
動産の物権変動なら、普通は引渡し(民法178条)が対抗要件取得には必要になります。
あと、不動産物権変動で、登記以外の対抗要件ってありましたっけ…?
借地権なら、登記建物の所有(借地借家10Ⅰ)とか、建物滅失時の「明認方法」(借地借家10Ⅱ)などがありますが、所有権だとちょっと思いつかないですね。
[自説の根拠]参考:対抗要件 – Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AF%BE%E6%8A%97%E8%A6%81%E4%BB%B6
●契約の解除(合意解除含) 契約の解除前でも、後でも、対抗するには登記の具備が必要
●詐欺による意思表示の取消し
①取消前の善意の第三者に対抗することができない(大判昭和17年9月30日)
②取消後に利害関係を有するに至った第三者と売主との不動産の物権変動は、登記によって決定される(大判昭和17年9月30日)
[自説の根拠]大判昭和17年9月30日より
関連問題
Aは,Bに対し,自己所有の甲土地を売ったが,この売買はBの詐欺によるものであった。
この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
AはAB間の売買を取り消すとの意思表示をしたが,その前に,BがCに対し,この土地を売った。Cは,Bから所有権移転登記を受けていなくても,BC間の売買契約当時,AB間の売買がBの詐欺によるものであることを知らなかったときは,Aに対し,甲土地の所有権取得を主張できる。
9
抵当権の法律関係について、適切か否か答えよ。
土地に抵当権が設定された当時,その土地に建物が築造されていた場合,その建物の所有者が,その土地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有しないとしても,抵当権者は,土地とともに建物を競売することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 (民法 389条)
民法 第389条
1項
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使すること
ができる。
2項
前項の規定は、その建物所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。
◇しかしながら、抵当地が更地ではない場合は一括競売できない例に挙げられていますので、抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできません。
370条 抵当権の効力の及ぶ範囲
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。
ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。
下の問題も含めなんだか納得しにくい問題ですね。
結局はどうなんでしょうか?
本番で出題された場合は○ってことで良いのでしょうか?
一括競売は、抵当権設定当時、目的土地が更地でなければ出来ない。と教わりました。
土地のみに抵当権を設定した当時にすでに建物があった場合や建物の所有者が抵当地を占有することについて抵当権者に対抗できる権原を持っている場合(更地に抵当権を設定した後に土地の賃借権登記をし抵当権者の同意の登記を得ていた場合等)は、一括競売はできません。
問題文は、抵当権設定時と地上に建物があるから法定地上権が成立しているので、一括競売できません。
一括競売は、土地を更地として評価した抵当権者を保護するものです。
更地に抵当権を設定後、建物が建築された場合、土地のみを競売した場合には、法定地上権が成立しない為、買受人が建物の収去請求をできるとしても、実際には買い手がつきにくい為に、抵当権者に「土地のみの競売」か「一括競売」を選択できるのが趣旨です。
本問は、競売後は法定地上権が成立する為、もともと底地としての価値しかない土地として評価して抵当権を設定したはずであり、抵当権者の保護の必要性がありません。
関連問題
次の説明は、抵当権に関する記述である。
抵当権設定後に抵当地に建物が築造された場合に,その建物が抵当権設定者以外の者によって築造されたときは,土地の抵当権者は,抵当地と共に一括してその建物を競売することはできない。
10
買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は,抵当権に基づく物上代位権の行使として,買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができるとする見解がある。この見解に関する次の記述について,当該見解の論拠とすることができるか否か答えよ。
買戻代金は,実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ,目的不動産の価値変形物として,目的物の売却又は滅失により債務者が受けるべき金銭に当たるといって差し支えない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判(三小)H11.11.30 民集53巻8号1965頁 より抜粋。
「買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は、抵当権に基づく物上代位権の行使として、買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができると解するのが相当である。けだし、買戻特約の登記に後れて目的不動産に設定された抵当権は、買戻しによる目的不動産の所有権の買戻権者への復帰に伴って消滅するが、抵当権設定者である買主やその債権者等との関係においては、買戻権行使時まで抵当権が有効に存在していたことによって生じた法的効果までが買戻しによって覆滅されることはないと解すべきであり、また、買戻代金は、実質的には買戻権の行使による目的不動産の所有権の復帰についての対価と見ることができ、目的不動産の価値変形物として、民法三七二条により準用される三〇四条にいう目的物の売却又は滅失によって債務者が受けるべき金銭に当たるといって差し支えないからである。」
…ということで、設問枝は判例そのまま、設問本文の根拠となっています。よって○。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
つまり、火災滅失時の火災保険金と同じように、目的不動産の価値変形物であるから、物上代位ができる、という事ですね。
11
Aが土地所有者Bから賃借した土地上に所有している甲建物についてCのために抵当権を設定した場合について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
AがFに対して,抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的で甲建物を賃貸した場合,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態のときでも,Cは抵当権に基づく妨害排除請求権を行使してFに対し直接自己に甲建物の明渡しを求めることはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
Fが善意で賃借人となった場合でも
不法占有しているという判断となるのでしょうか?
またこの場合に退去は6ヶ月以内にすれば
いいのでしょうか?
CはAに対して直接自己に甲建物の明け渡しを求めることは出来ない。つまり、Cは、Fに対してAに甲建物を明け渡せとしかいえない。
建物の明け渡しが出来るパターンは、Aに抵当不動産の適切な管理が期待できないときである。
確かに判例では、所有者に抵当不動産を適切に維持管理することが期待できないとき、抵当権者は直接自己に明渡すことを請求できるとあり、問題文ではそのことがストレートにふれてはありません。しかし、「抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的で甲建物を賃貸した場合」とあり、こんな所有者には抵当不動産の適切な維持管理は期待できませんよね。
12
不動産の物権変動について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
AとBを共同相続人とする相続において,Aは相続財産に属する甲不動産を遺産分割協議により取得したが,当該遺産分割後その旨の登記をする前に,Bの債権者Cの代位によって法定相続分に従った相続の登記がされ,CがBの法定相続分に係る持分に対し仮差押えをし,その旨の登記がされた。この場合,Aは,Cに対し法定相続分を超える権利の取得を対抗することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
持分更正登記手続承諾請求
判旨のとおり。
根拠条文:
民法177条,民法909条
[自説の根拠]最判S46.1.26
持分更正登記手続承諾請求 昭和46年01月26日 最高裁判所第三小法廷
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法一七七条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。
[自説の根拠]http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121355087928.pdf
関連問題
相続と登記について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
被相続人Aから甲不動産をBと共に共同相続したXが,遺産分割によって甲の所有権全部を取得したとしても,Bの債権者YがBに代位して甲につきB及びXの共同相続登記をした上でBの持分を差し押さえた場合,Ⅹは,自己の権利の取得をYに対抗することができない。
13
留置権について、適切か否か答えよ。
留置権は,担保されるべき債権が弁済期にないときは,成立しない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。 (民法 301条)
民法295条1項但書
(留置権の内容)
第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
14
果実について、適切か否か答えよ。
不動産質権者は,質権の目的物である不動産の用法に従いこれを使用することができるが,不動産から生じた果実を取得することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。 (民法 356条)
民法356条
「不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。」
つまり、不動産を賃貸してその賃借料(法定果実)を収益しても、それは“不動産の用法に従”ったものだからゆるされることになります。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記条文です。
不動産質権の特徴は、上記hitoshiさんの書かれているように、
●質権者は不動産の用法に従い、使用収益を得る
ことと共に、
●その為の必要費・管理費は質権者が負担する
●質権者は利息を取ることができない
の3つです。但し、担保不動産収益執行の開始があったときは、適用されません。
===
(不動産質権者による使用及び収益)
第356条 不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。
(不動産質権者による管理の費用等の負担)
第357条 不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。
(不動産質権者による利息の請求の禁止)
第358条 不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。
(設定行為に別段の定めがある場合等)
第359条 前3条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法(昭和54年法律第4号)第180条第2号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。
関連問題
次の説明は、担保物権に関する記述である。
法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
抵当権の効力は,常に,抵当不動産から生じた果実にも及ぶ。
15
共有者の一人が死亡し,相続人の不存在が確定し,清算手続が終了した場合,その共有持分は他の共有者に帰属するとする見解(甲説)と,特別縁故者に対する財産分与の対象となり,この分与がされない場合に初めて他の共有者に帰属するとする見解(乙説)がある。次の記述を,甲説の説明又は根拠に親しむものと,乙説の説明又は根拠に親しむものとに分けた場合,甲説の説明又は根拠に親しむものとして適切か否か答えよ。
相続財産が共有持分である場合とそうでない場合とで,区別して扱う合理的な理由はない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
共有持分とそうでない財産を区別しないで同様に扱うとすると、共有持分も特別縁故者に対する財産分与の対象となる為、乙説に親しむ。が正解です。
[自説の根拠]新司H21民事系短答36問
☆新入生☆ 一発合格 @運免 (3分前)
1
次の記述について、適切か否か答えよ。
即時取得によって占有物の所有権を得た者は,所有権を失った原所有者に対して,不当利得返還責任を負わない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
民法第192条における即時取得制度の趣旨は、動産の占有に公信力を与えて、動産の取引に入った者を保護し、取引の安全を図ろうとするものです。
よって、即時取得によって得た所有権は完全な所有権であり、原所有者が不当利得を主張することはできません。
(注)例外として、「盗品又は遺失物の回復請求」が第193条に定められています。
即時取得が有効に成立した効果として、取得者は、その動産について行使する権利を取得します(所有権、質権)。
この取得は原始取得なので、前主のもとで動産に付着していた権利は消滅し、承継されません。
従いまして、取得者は、原所有者に対し不当利得返還責任を負わない、ということになります。
不当利得の返還請求権とは、法律上の原因なしに一方が利益を得、他の一方が損害を被っている場合に発生するものです。
即時取得は民法192条に明文化されており、法律上の原因があると考えますので、不当利得の対象となりません。
[自説の根拠]民法703条・192条
2
譲渡担保について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
譲渡担保の目的となっている商品を,譲渡担保権者の許諾を得て譲渡担保権設定者が第三者に譲渡した場合,転売代金債権に対して譲渡担保権者の物上代位権を認めることはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。 (民法 398条の17)
最決(二小)H11.5.17 民集第53巻5号863頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120629701950.pdf
より抜粋。
—
信用状発行銀行である相手方は、輸入商品に対する譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、転売された輸入商品の売買代金債権を差し押さえることができ(る)と解するのが相当である。
—
つまり、譲渡担保の目的となっている動産を譲渡担保権者から処分権限を得て債務者である譲渡担保権設定者が第三者に譲渡した場合、譲渡担保権者はその譲渡代金に対して物上代位権を行使することができます。
設問肢は上記判例と正反対の結論になっていますね。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
譲渡担保についてはっきり理解していないので調べてみました。
Wikipediaより引用
「譲渡担保(じょうとたんぽ)とは、債権者が債権担保の目的で所有権をはじめとする財産権を債務者または物上保証人から法律形式上譲り受け、被担保債権の弁済をもってその権利を返還するという形式をとる担保方法である。」
譲渡担保では、所有権は担保権設定者に移り、債務者はいわば使わせていただいているという形になります。
[自説の根拠]自説の根拠は、Wikipedia譲渡担保
難しく考えなくても・・・
債権者の承諾を得て譲渡担保を債務者が第三者に譲渡し、
そこから得た代金を債権者は物上代位できるという事ですね。
3
次の記述について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Aは,Bから取引上の信用を得るために,A所有の甲土地の名義を貸してほしいと頼まれ,甲土地につき売買予約を仮装してBを権利者とする所有権移転請求権保全の仮登記手続をした。その後,Bは,Aの実印及び印鑑証明書を用いて前記仮登記に基づき自分に対する所有権移転の本登記手続をした上,Cに甲土地を譲渡した。Cが,登記名義人Bを甲土地の所有者と信じたが,信じるにつき過失があったときは,Cは甲土地の所有権の取得をAに対して主張することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
表見代理 - 善意無過失
・シンプルに。
1、通謀虚偽の第3者は「善意」であれば保護される。
↓
2、本問の場合、仮登記から本登記という登記行為があり、Cが登記簿を閲覧したらA→Bの流れが見れて信用した。(ここで表見代理に準ずるポジションになった)
↓
3、表見代理の相手方には「善意無過失」が保護要件である。 ↓
*したがって、Cに過失があればアウト。
こんな感じですね・・・・
本問は最判昭和43・10・17に関するもので、「民法110条が適用」されたのではなく、「民法94条2項同法110条の法意に照らし」判断がされたはその判旨とおり。よって善意無過失
民法94条、110条の類推型と法意型の違い
①94条2項類推
善意のみ
帰責性大
②94条2項および110条の法意に照らし重畳適用
善意無過失
帰責性小
第一外観作出関与
③94条2項および110条類推適用
善意無過失
帰責性中
第一外観作出に無関与
本問は②のケース
[自説の根拠]「類推適用」と「法意に照らして」の違い、「適用」「準用」「類推適用」の違いおよび本問趣旨
4
次の記述について、適切か否か答えよ。
1筆の土地の一部に関して,債権関係が成立することはあっても,物権が成立することはない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
それと、この問題は合格者の大部分は正解していますので、大事にして下さい。
一筆の土地の一部についても占有は可能であり、その時効取得も認められる、という判例(大連判T13.10.7)があります。
そうでないと、多くの相隣関係(土地の境界争い)を解決することが不可能になりますからね。
参考:最判(二小)S30.6.24 民集第9巻7号919頁 要旨
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=01&hanreiNo=57460&hanreiKbn=01
より。
—
一筆の土地の一部といえども、売買の目的とすることをうべく、その部分が具体的に特定しているかぎりは、右部分につき分筆手続未了前においても、買主はその部分につき所有権を取得することができる。
—
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
1筆の土地の一部に関して、地役権は成立しますよね。
所有権の一部移転が可能なのでは?
ただし、第三者に対抗するためには、分筆のうえ登記をする必要がある。(最S30.6.24)
5
AのBに対する金銭債権を担保するために,BがCに賃貸している建物を目的とする抵当権が設定された場合におけるAの物上代位権の行使について,判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Aのために抵当権設定登記がされた後にBの一般債権者FがCに対する既発生の賃料債権を差し押さえ,その債権をFに転付する旨の命令が効力を生じた場合,Aは,同じ賃料債権を差し押さえて優先弁済を受けることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
転付命令が第三債務者に送達される時までに、抵当権者が差押えをする必要がある為、これは×。
[自説の根拠]民事執行法159条3項
「転付命令が第三債務者に送達される時までに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは,転付命令の効力を妨げることはでき」ない(H14.3.12)。
以下、一応の覚え方です。
一般債権者と抵当権者の優劣は
(A<Bは、Bが先,Aが後の意)、
差押命令送達<抵当権設定登記(H10.3.26)
かつ、弁済<抵当権者の差押え(372条・304条1項ただし書)
→抵当権者の勝ち
転付命令は弁済とみなすから(民執160条)設問は
転付命令>抵当権者の差押え
→抵当権者の勝ち
[自説の根拠]自説の根拠は、
最判H14.3.12
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120700579264.pdf
最判H10.3.26
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121200473379.pdf
民法判例百選Ⅰ第6版177頁
関連問題
敷金の取扱いについて、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
敷金が授受された賃貸借契約に係る賃料債権につき抵当権者が物上代位権を行使してこれを差し押さえた場合において,当該賃貸借契約が終了し,目的物が明け渡されたとしても,それまでに生じた賃料債権が,敷金の充当によって消滅することはない。
6
不動産物権変動について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
AからB,BからCへ土地が順次売却された後,AB間の売買契約が合意解除された場合,Cは,所有権移転登記を経由していなくても,その所有権の取得をAに対し主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
最判(一小)S33.6.14 民集第12巻9号1449頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121216804795.pdf
より抜粋。
—
思うに、いわゆる遡及効を有する契約の解除が第三者の権利を害することを得ないものであることは民法五四五条一項但書の明定するところである。
合意解約は右にいう契約の解除ではないが、それが契約の時に遡つて効力を有する趣旨であるときは右契約解除の場合と別異に考うべき何らの理由もないから、右合意解約についても第三者の権利を害することを得ないものと解するを相当とする。
しかしながら、右いずれの場合においてもその第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。
けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。
してみれば、被上告人の主張自体本件不動産の所有権の取得について登記を経ていない被上告人は原判示の合意解約について右にいわゆる権利を害されない第三者として待遇するを得ないものといわざるを得ない…。
—
以上から、設問肢のCは民法545条1項但書の「第三者」に該当し、民法177条の第三者と同様に扱われることになるので、登記がなければAに対抗できません。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
●民法545条第1項
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を現状に服させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
↓
●大判大正10年5月17日
解除前の第三者は本条1項但書によって善意・悪意を問わず保護されるが、保護要件として登記を具備していることが必要である。
[自説の根拠]大判大正10年5月17日
関連問題
AとBは,A所有の土地について,所有権を移転する意思がないのに通謀して売買契約を締結し,Bの名義に移転登記をした。民法の規定及び判例に照らして答えよ。
BがFに,さらにFがGに,それぞれこの土地を売却し,所有権移転登記をした場合で,AB間の契約の事情について,Fは知っていたが,Gが知らなかったとき,Gは,Aに対しこの土地の取得を主張することができる。
7
物上代位について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
抵当権者が,物上代位権を行使して,抵当不動産の賃貸借契約に基づく未払の賃料債権の全額を差し押えた場合,当該不動産の賃借人と賃貸人の間で敷金が授受されていて,かつ,賃貸借契約が終了し,賃借人が不動産を明け渡したとしても,敷金は未払の賃料に充当されない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
「家屋賃貸借における敷金は、賃貸借終了後家屋明渡義務履行までに生ずる賃料相当額の損害金債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を担保するもの」
最判昭48.2.2より引用
敷金は以上のような性格を持っていますので、賃貸借契約が終了し賃借人が不動産を明け渡している以上、未払い賃料に充当されます。
[自説の根拠]自説の根拠は、最判昭48.2.2
抵当権者が物上代位に基づき賃料を差押え後、賃貸借契約が終了し目的物を明け渡した場合、賃料債権は、敷金の充当によりその限度で消滅する。(最判平14.3.28)
*****
賃貸人の資力が悪化した際に、賃借人が賃貸借契約を終了させて賃借物件を明け渡し、敷金を未払い債権に充当させることによって、敷金を回収する方策を認めた判例のようです。
[自説の根拠]最判平成14.3.28
敷金は別個独立した債権ではないので未払い賃料があるのに敷金は全額返してもらいまっせは常識的に考えて通らないでしょ。勿論不動産明け渡しと敷金の返還は同時履行の関係にはありません
本問の論点は、「差押え後も未払い賃料への敷金の充当は可能か」です。
賃料差押え後は、賃料請求権は抵当権者に移るので、賃借人は、(賃料)債務は抵当権者に、(敷金返還請求)債権
は賃貸人に・・と別箇有する形になります。
ここで、敷金の充当を「相殺」と見た場合、それはできないことになりますが、判例では「敷金の充当は、敷金契約から当然に発生するもので、相殺ではない」としています。
従って、差押え後であっても敷金の充当が認められ、賃借人は抵当権者に賃料債務の消滅を対抗できることになります。
[自説の根拠]最判平成14.3.28
8
甲土地を所有するAが甲土地を占有するBに対し所有権に基づき甲土地の明渡しを請求する訴訟においてBが主張する抗弁の要件事実に関する次の記述について,適切か否か答えよ。
Bは,甲土地を無償で借りる旨をAと合意した事実を主張立証すれば,請求棄却の判決を得ることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
使用貸借時の貸主からの一方的解除
はどうなってたんでしょうか・・?
使用貸借は要物契約ですので合意のみでは成立したとはいえません。従って引渡しの立証が必要となります。
ちなみに前出の使用期間中云々という話は、権利の消滅事由ですので、主張立証責任は返還請求をしている側(使用期間が終了している旨の主張立証)になります。
9
動産についての留置権と質権について、適切か否か答えよ。
留置権者が留置物の占有を継続していても,その被担保債権の消滅時効は進行するが,質権者が質物の占有を継続していれば,その被担保債権の消滅時効は中断する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
留置権の行使は、債権の消滅時効の進行を妨げない。 (民法 300条)
留置権も質権も目的物を留置しているだけでは,被担保債権の時効は停止せず,請求などをしなければ時間の経過により,消滅時効は進行していきます。そして被担保債権が時効により消滅すれば,担保物権の附従性により留置権や質権も消滅することになります。
[自説の根拠]民法350条,300条
《消滅時効の進行》
留置権者が留置物の占有を継続していても,その被担保債権の消滅時効は進行する(民法300条)。同様に,質権者が質物の占有を継続していても,その被担保債権の消滅時効は中断[しない](民法350条)。
《消滅時効の進行》
留置権の行使は,債権の消滅時効の進行を妨げない(民法300条)。
関連問題
消滅時効について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
留置権者が留置物の占有を継続している間であっても,その被担保債権についての消滅時効は進行する。
10
不動産の物権変動について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
AがBに甲不動産を売り渡した後,Bの債務不履行を理由に当該売買契約を解除して甲不動産の所有権がAに復帰した場合,Aは,その旨の登記をしなければ,当該解除後にBから甲不動産を取得したCに対し,所有権の復帰を対抗することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
問題文からは判例を出すまでもなく民177により対抗関係に立ち、登記が必要な為○という問題。
下記判例は登記予告と民177の関係が論点となってますが、参考までに。
「不動産売買契約が解除され、その所有権が売主に復帰した場合、売主はその旨の登記を経由しなければ、たまたま右不動産に予告登記がなされていても、契約解除後に買主から不動産を取得した第三者に対し所有権の取得を対抗できない。」
[自説の根拠]最高裁昭和35年11月29日(登記抹消請求)、民§177
債務不履行による売買契約解除後に現れた第三者には登記なくして対抗できない。
Cは第三者に当たる。
●契約の解除(合意解除含) 契約の解除前でも、後でも、対抗するには登記の具備が必要
●詐欺による意思表示の取消し
①取消前の善意の第三者に対抗することができない(大判昭和17年9月30日)
②取消後に利害関係を有するに至った第三者と売主との不動産の物権変動は、登記によって決定される(大判昭和17年9月30日)
[自説の根拠]大判昭和17年9月30日より
設問のBC間の譲渡が、ABの契約解除前であった場合、Cは解除の時に登記を備えていなければ、Aに所有権を対抗できません。ただし、AB間の契約が虚偽表示であった場合などは対抗できます。
[自説の根拠]最判昭33・6・14民集12-9-1449
関連問題
Aが所有する甲不動産について,Bを売主とし,Cを買主とする売買契約が成立した場合について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
甲不動産の所有権は売買契約成立時にBからCに移転するが,BがAから所有権を取得することができないため売買契約が解除された場合は,甲不動産の所有権はCからAに直接復帰する。
11
Aは,その所有する不動産を目的として,Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定し,所有権移転登記をした。この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
Bが,譲渡担保権の実行として,Aに対し目的不動産の引渡しを求める訴えを提起したのに対し,Aが清算金の支払と引換えにその履行をすべき旨を主張したときは,特段の事情のある場合を除き,Bの請求は,Aへの清算金の支払と引換えにのみ認容される。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
判例 S46.03.25 でしょうか・・・?
担保目的実現の手段として、債務者に対し右不動産の引渡ないし明渡を求める訴を提起した場合に、債務者が右清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものと解するのが相当である。
それでいいと思いますよ。
念のために判決文の必要部分を引用しておきます。
最判(一小)S46.3.25 昭和42(オ)1279号事件(民法判例百選Ⅰ〔第六版〕96事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F275A810B5DA7F2549256A850031220B.pdf
より抜粋。
—
貸金債権担保のため債務者所有の不動産につき譲渡担保形式の契約を締結し、債務者が弁済期に債務を弁済すれば不動産は債務者に返還するが、弁済をしないときは右不動産を債務の弁済の代わりに確定的に自己の所有に帰せしめるとの合意のもとに、自己のため所有権移転登記を経由した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合においては、目的不動産を換価処分し、またはこれを適正に評価することによつて具体化する右物件の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として債務者に支払うことを要するのである。そして、この担保目的実現の手段として、債務者に対し右不動産の引渡ないし明渡を求める訴を提起した場合に、債務者が右清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものと解するのが相当である…。
—
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
問題文からすると、所謂「引換給付判決」の理解を求めていると読める。引換給付判決とは、物の引渡しを求める訴訟において、被告が留置権を主張した場合、原告の請求を全面的に棄却することなく、その物に関して生じた債権の弁済と引換えに物の引渡しを命ずるものであり、問題文は上記内容に沿った記述がされているので、回答は「◯」となる。
[自説の根拠]2014年盤版合格革命基本テキストP427
譲渡担保は、設定時に所有権が担保権者に移転されるものの、目的物は、設定者がそのまま使用することがほとんどです。
そして、その実行には、清算(担保目的物の価額-被担保債権額)が必要となりますが、その清算金と、目的物の引渡しは、「同時履行」の関係にあるため、適正な清算金が支払われるまでは、設定者は、目的物を留置できる、ということです。
[自説の根拠]最判昭和46年3月25日
12
Aは,その所有する不動産を目的として,Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定し,所有権移転登記をした。この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
目的不動産が,Aが第三者から賃借する土地上の建物であり,Bが当該建物の引渡しを受けて現実に使用収益をする場合であっても,いまだ譲渡担保権が実行されておらず,Aによる受戻権の行使が可能な状態にあれば,敷地について賃借権の譲渡又は転貸は生じていないから,土地賃貸人は,賃借権の無断譲渡又は無断転貸を理由として土地賃貸借契約の解除をすることができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
◆条文:
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
◆判例:
地上建物につき譲渡担保権が設定された場合であっても、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときは、未だ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について612条にいう賃借権の譲渡・転貸がされたものと解するのが相当であり、他に賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のない限り、賃貸人は土地賃貸借契約を解除することができる。
[自説の根拠]民612条1項、最判H9.7.17
どうして無断転貸が禁止され解除事由にされているかというと、賃借人が変わると使用態様が変わってしまうことがあり、それが信頼関係破壊になると考えられるからです。そうであれば、たとえ譲渡担保であっても現実に引渡しを受けて使用収益しているなら同様に考える、というのが判例の立場だ、と覚えるとよいのではないでしょうか。
実際に部屋を借りるときには簡単な審査があったりしますよね。私も源泉徴収票などを提出して実際に家賃を払える能力があるか、審査を受けました。
貸し手からすれば、この人なら貸し手もいいだろう、と思うから貸しているわけです。
でも無断貸与が実際に許されてしまえば、
当たり障りのなさそうな人が最初に借りて、実際にはや○ざの人が住んでいる。しかし追い出すことができない
なんてこともまかり通ってしまうでしょう
貸し手保護の規定ですね
確かに解除は可能なんでしょうがいざ、問題でると「当設問では信頼関係を破壊すると認めるに足る特段の事情が認められない」とかいって解除できない(つまり○)が答えの可能性があるので○にしたのですが・・・対抗策があればお願いいたします。
この問題の論点は、譲渡担保権が実行されていない状態でも、賃貸人が「無断譲渡」であると主張できるか否か、です。
そしてこの場合、iiikkkaaaさんのあげてくれた判例の趣旨により、譲渡とみなして解除することができることになります。
本問では、『譲渡担保権が実行されていない状態にあれば賃借権の譲渡又は転貸は生じていないから、解除することができない』としているから、×になります。
この場合の無断譲渡、転貸の対象は
借地権
13
Aが所有する甲不動産について,Bを売主とし,Cを買主とする売買契約が成立した場合について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
BC間の売買契約が成立した当時からAに甲不動産を他に譲渡する意思がなく,したがってBにおいて甲不動産を取得しCに移転することができないような場合であっても,なおその売買契約は有効に成立する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判(一小)S25.10.26 民集第4巻10号497頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319123031397372.pdf
より抜粋。
—
他人の物の売買にあつては、その目的物の所有者が売買成立当時からその物を他に譲渡する意思がなく、従つて売主においてこれを取得し買主に移転することができないような場合であつてもなおその売買契約は有効に成立するものといわなければならない。
この事は、民法が他人の権利を目的とする売買についてはその特質に鑑み同法五六一条乃至五六四条において、原始的不能の場合をも包含する特別規定を設け、前示一般原則の適用を排除していることに徴して明かであろう。
—
設問肢は上記判例と同旨ですね。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
他人物売買は、
有効に成立する
14
質権について、適切か否か答えよ。
質権者は,質物の所有者の承諾がなくても,質物をさらに質入れすることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年07月06日)
○
転質
転質には「承諾転質」と「責任転質」の2種類存在。
「承諾転質」は質権設定者の承諾を得てし、「責任転質」質権設定者の承諾を得ることなく質権者が自己の責任をもってする
「承諾転質」民法350条が準用する民法298条2項によりこれが許され、「責任転質」は民法348条は、責任転質について規定したものであるとするのが通説及び判例。
ちなみに責任転質の場合、転質により生じた損失については、不可抗力を以ってしても、その責を免れる事は出来ないそうです。
(転質)
第348条 質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。
15
占有について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
他主占有の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合,その占有が所有の意思に基づくものでないことについて,取得時効の成立を争う者が主張立証しなければならない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年07月06日)
×
他主占有の相続人が独自の占有に基づく取得時効の成立を主張する場合において、右占有が所有の意思に基づくものであるといい得るためには、取得時効の成立を争う相手方ではなく、占有者である当該相続人において、その事実的支配が外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと解される事情を証明しなければならない。((最判平8・11・12)
主張立証しなければならないのは他主占有を相続し権利を得ようとしている方。所有の意思に基づいての占有であった事が立証困難な場合取得時効の成立が認められない可能性も十分に有りうる。
(占有の性質の変更)
民法第185条 権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。
-
*相続によって占有の性質は承継されるのが原則です。
他主占有のままであれば「所有の意思」は推定されません。
取得時効の成立を主張するには、占有の性質が自主占有に変わったことを、占有者が立証しなければなりません。
[自説の根拠]民法第185条
1
物権的請求権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
建物を所有することによって土地を不法占有している者がいる場合,土地の所有者は建物の所有者を相手に訴えを起こさなければならず,建物の登記名義人がだれかは被告を選ぶ基準とはならない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
平成6年の判例(民法百選Ⅰ〔第六版〕47事件)は、所有権の実質を有していた者がその外観を保持していたことに対する責任を問うているものですから、この問題で聞いている原則から大きく外れるものではないと思います(まあ、例外と言えば例外ですが)。
最判(参照)H6.2.8 民集第48巻2号373頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120900990659.pdf
より引用(iiikkkaaaさんの引用部分の直後からです)。
—
けだし、建物は土地を離れては存立し得ず、建物の所有は必然的に土地の占有を伴うものであるから、土地所有者としては、地上建物の所有権の帰属につき重大な利害関係を有するのであって、土地所有者が建物譲渡人に対して所有権に基づき建物収去・土地明渡しを請求する場合の両者の関係は、土地所有者が地上建物の譲渡による所有権の喪失を否定してその帰属を争う点で、あたかも建物についての物権変動における対抗関係にも似た関係というべく、建物所有者は、自らの意思に基づいて自己所有の登記を経由し、これを保有する以上、右土地所有者との関係においては、建物所有権の喪失を主張できないというべきであるからである。
—
一応、原則の方の判例も引いておきます。
最判(一小)S47.12.7 民集第26巻10号1829頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121030522807.pdf
より引用。
—
建物の所有権を有しない者は、たとえ、所有者との合意により、建物につき自己のための所有権保存登記をしていたとしても、建物を収去する権能を有しないから、建物の敷地所有者の所有権に基づく請求に対し、建物収去義務を負うものではないと解すべきである。
—
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
hitoshiさん、
物権的請求権の相手方に関して原則と例外の区別は明文の規定はありませんが、通説として下記の通りとなっています。
◆原則について:
土地所有者は、自己所有の土地上に不法に建てられた建物について、土地所有権に基づく物権的請求権を行使して当該建物の収去や土地明渡しの請求を、通常は土地所有権の侵害者に対してすべきものとなっていました。
◇理由は、従来までの判例では土地の所有者は、建物の所有権移転について、民177の第3者ではないと解されていた為です。
◆例外について:
建物収去土地明渡(最判H6.2.8)の判旨ではこれを覆し、登記名義人の責任を認めています。
◇理由は土地所有権を侵害されている者は、実際に自己の土地を侵害している者を探し出すのは大変であり、
また、不法建物の所有者として登記簿上に記載されている者が、譲渡を理由として、当該不法建物の収去・土地明渡し義務を免れるのは、不当であるという考えに基づく為です。
従って本問は原則(従来までの判例)に即して回答すると○となり、従来までの判旨を批判する見解を例外と理解し、コメントさせて頂きました。言葉が足りずスミマセン。。。
非常に重要な判例2つですね
勉強になります
ただ、この2つの判例を、原則-例外という形で捉えるのは実益がない(登記名義をめぐって正反対の結論だから)ようです。本設問の趣旨とも違うような気がします。
むしろ、この2つの判例からいえることは、
具体的な争訟においてより妥当な結論を得るための視点として、真の所有者か登記簿上の名義人か、という形式的な基準を裁判所は採用していない。
ということだと考えます。
よって、基準を固定して考える本肢は×バツである、
と考えます。
[自説の根拠]上のコメントすべて
2
物権的請求権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
抵当権の設定された土地が不法に占有されている場合,抵当権者は,その占有者に対し,抵当権に基づいて妨害の排除を求めることができるばかりでなく,自己に明渡しを求めることもできる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
ただ単なる「不法占有者」というのではなく、それが抵当権を侵害している(交換価値の実現を妨害している)と評価されることが必要ということで×というわけですねえ。
ただ、tigereye さん の疑問:私としても、設問肢の語尾「できる。」という文言の不明確性で何度やっても明確に×を選べず、困ります。「できる」が可能性という意味にも感じられるからです(できる場合があるという意味で)。「できる」が確定的な権限(権利)という意味でれば、明確に×でいいのですが。。他肢との兼ね合いで決まるように思えます。
[自説の根拠]単問といてはどうなんでしょう? 検討してみていただきたいです、、
「『所有者において』抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない」場合でないと『自己に明渡しを求める』ことはきない。
その要件の存否に言及することなく、『自己に明渡しを求めることができる』とする設問は明らかに誤り
[自説の根拠]最判(一小)H17.3.10 民集第59巻2号356頁
当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる
余談ですが、
設問肢の語尾「できる。」という文言の意味合い、つまり
「できる」が可能性という意味なのか、はたまた「できる」が確定的な権限という意味に関して
妨害排除は権限であり、自己に明け渡しは可能性である実際を踏まえ、設問文面に臨めば、
設問枝の『(も)できる』の意味合いは係る連語の『ばかりでなく』から、可能性の意味合いを明示していない『(も)できる』は後者の権限の意味合いであることが窺える。
3
AのBに対する金銭債権を担保するために,BがCに賃貸している建物を目的とする抵当権が設定された場合におけるAの物上代位権の行使について,判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Bの一般債権者DがBのCに対する賃料債権を差し押さえた後にAのための抵当権設定登記がされた場合,Aは,同じ賃料債権を差し押さえて優先弁済を受けることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
最判H10.3.26
「債権について一般債権者の差押えと抵当権者の物上代位権に基づく差押えが競合した場合には、両者の優劣は、一般債権者の申立てによる差押命令の第三債務者への送達と抵当権設定登記の先後によって決すべきである」
優先弁済を受けるなら、差押えの前に抵当権設定登記をしている必要があります。
[自説の根拠]最判H10.3.26
物上代位との対抗関係
①債権譲渡とは、抵当権設定登記と債権譲渡の第三者に対する対抗要件具備との先後
②差押債権者とは、抵当権設定登記と差し押さえ命令の第三債務者への送達との先後
③相殺とは、抵当権設定登記と第三債務者の抵当権設定者に対する自動債権の取得時期との先後
[自説の根拠]特になし
関連問題
次の事例について、民法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
Aは,B所有の建物に抵当権を設定し,その旨の登記をした。Bは,その抵当権設定登記後に,この建物をCに賃貸した。Cは,この契約時に,賃料の6ヵ月分相当額の300万円の敷金を預託した。
Aが物上代位権を行使して,BのCに対する賃料債権を差し押さえた後は,Cは,Aの抵当権設定登記前からBに対して有している弁済期の到来している貸付金債権と当該賃料債権とを相殺することはできない。
4
共有物の法律関係について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
ABがC所有の土地上に建物を共有してその土地の所有権を侵害している場合,Cが建物収去土地明渡の訴えを提起するときは,AB双方を被告とする必要がある。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
建物収去土地明渡請求;
「共同所有人の義務はいわゆる不可分債務であり、必ずしも全員に対して同時に訴を提起し、同時に判決を得ることを要しない」
∴AB双方を被告とする必要は無い為、誤り。
[自説の根拠]最判S43.3.15
不可分債権・債務の定義は、債権の目的が性質上不可分である場合には、分割債務とはならず、債権者は、債務者のうちの1人に対して全部の履行を請求することができる。これを不可分債務といい、債権者が複数の場合は不可分債権となる。この定義を知っておけば、判例をしらずともこの回答の正解に到達することはできる。全員に対して請求する必要はないとの結論に達する。
[自説の根拠]民法430条、432条
5
物権について、適切か否か答えよ。
対抗要件を備える必要がない物権の場合には,時間的に先に成立した物権が優先する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
ayumaruさん、
先取特権などを指すのではないでしょうか。そしてその順位にも規定があり、時間的優劣ではない為、×なのでしょうね。。
[自説の根拠]民法第329条、330条
なるほど、先取特権ですか。納得です。おっしゃるとおり順位の規定もありますから、時間的優劣では決まりませんね。納得しました。ありがとうございます。
対抗要件ばかりに気をとられていたので。。。
第三百二十九条 一般の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第三百六条各号に掲げる順序に従う。
第三百六条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
一 共益の費用
二 雇用関係
三 葬式の費用
四 日用品の供給
[自説の根拠]民法 第三百二十九条・第三百六条
6
民法に定める担保物権について、適切か否か答えよ。
不動産先取特権,不動産質権及び抵当権の順位は,登記の先後によって決まる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。 (民法 373条)
~登記をした不動産保存、工事の先取特権~
◆不動産の保存行為の完了した後に直ちに登記をした場合
◆不動産の工事を始める前に登記した場合
上記の不動産先取特権は、登記の先後によらず当該不動産を目的とする抵当権に優先します。
不動産質権及び抵当権の順位は,登記の先後によって決まります。
よって×が正解です。
[自説の根拠]民法337,338,339条
冗長かも知れませんが関連条文を挙げておきます。
===
(不動産の先取特権)
第325条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の特定の不動産について先取特権を有する。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買
(不動産保存の先取特権)
第326条 不動産の保存の先取特権は、不動産の保存のために要した費用又は不動産に関する権利の保存、承認若しくは実行のために要した費用に関し、その不動産について存在する。
(不動産工事の先取特権)
第327条 不動産の工事の先取特権は、工事の設計、施工又は監理をする者が債務者の不動産に関してした工事の費用に関し、その不動産について存在する。
2 前項の先取特権は、工事によって生じた不動産の価格の増加が現存する場合に限り、その増加額についてのみ存在する。
(不動産売買の先取特権)
第328条 不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。
(不動産の先取特権の順位)
第331条 同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、第325条各号に掲げる順序に従う。
2 同一の不動産について売買が順次された場合には、売主相互間における不動産売買の先取特権の優先権の順位は、売買の前後による。
(不動産保存の先取特権の登記)
第337条 不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。
(不動産工事の先取特権の登記)
第338条 不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
2 工事によって生じた不動産の増加額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。
(登記をした不動産保存又は不動産工事の先取特権)
第329条 前二条の規定に従って登記をした先取特権は、抵当権に先立って行使することができる。
(不動産売買の先取特権の登記)
第340条 不動産の売買の先取特権の効力を保存するためには、売買契約と同時に、不動産の代価又はその利息の弁済がされていない旨を登記しなければならない。
===
注1:不動産保存の先取特権と不動産工事の先取特権は、これより先に登記されていた抵当権に対しても優先する。
注2:不動産売買の先取特権とほかの担保物権などとの優劣は、登記の先後による。
注3:同一の不動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は「不動産保存>不動産工事>不動産売買」の順序に従う。
7
担保物権の効力について、適切か否か答えよ。
民法上の留置権者は,物に関して生じた債権の全部が弁済されるまでは,その物を留置することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。 (民法 296条)
留置権の不可分性
留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
[自説の根拠]民法第269条
細かくて恐縮ですけど、留置権の不可分性の根拠条文は
民法269条じゃなくて、民法296条だとおもいます。
誤記でした、大変失礼いたしました。。
留置権に関する規定は民法第2編「物件」7章の295条~302条ですね。「留置権の不可分性」については第296条です。
訂正してお詫び申し上げます。
ちなみに、「不可分性」は、留置権・質権・先取特権・抵当権の担保物権すべてにあります。
易しい (正答率90~100%) ほぼ全ての人が正解する問題です。絶対に正解して下さい。
8
根抵当権でない抵当権について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
Xが所有する甲不動産について,Yに対して抵当権を設定して金銭を借り入れるとともに,Aが,XのYに対する借入れ債務を担保するため,Yとの間で連帯保証契約を結んだ場合,Aが借入れ債務を全額弁済したとしても,Xは,Yに対して,抵当権設定登記の抹消を求めることはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
◆法廷代位
連帯保証人が被担保債権を全額弁済すると、弁済によって原債権とともに担保権が弁済者(連帯保証人Aさん)に移転するので、XさんはYさんに対して抵当権の消滅請求はできませんね。
[自説の根拠]大審院S9.10.16,民500条
↑上記コメント訂正
◆法廷代位
・法廷×
・法定○
です、スミマセンでした。
[自説の根拠]m(_ _)m
AがYを法定代位しているから、X→Yに抵当権の消滅請求できない。
YはAにより弁済されているから消滅請求する権限がない。
↑消滅請求という制度と、異なるため誤り。
連帯保証人の弁済は、債権者と主債務者との関係においても絶対効を生じるから、既に被担保債権は消滅することになるが、物上代位によって被担保債権である原債権は存続する。物上代位は債権の法定移転であり、連帯保証人について原債権がそのまま残ることになる。
9
動産についての留置権と質権について、適切か否か答えよ。
留置権と質権は,不可分性により,いずれも被担保債権の一部の弁済を受けただけでは消滅しないが,留置権については,債務者が相当の担保を提供して留置権の消滅を請求することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。 (民法 301条)
・留置権の不可分性(民296)
・担保の供与による留置権の消滅(民301)
・質権への準用(民350)
[自説の根拠]上記条文
コメントで必要十分ですが、一応、民法の関連条文を挙げておきます。
—
第二百九十六条 留置権者は、債権の全部の弁済を受けるまでは、留置物の全部についてその権利を行使することができる。
第三百一条 債務者は、相当の担保を供して、留置権の消滅を請求することができる。
第三百五十条 第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。
—
民法301条は質権に準用されていない、というところがポイントです。
留置権の場合は、例えば借家の雨漏りを借家人が自らの費用で修理していたときに(必要費)、その費用を大家から償還するため借家を留置するようなケースを考えればよいのですが、債権(修理代)に比べて留置された物(借家)の費用が大きすぎる場合がままあるので、債権に見合った担保(代担保)を提供することで留置権を消滅させられるようになっているんですね。
それに対して、質物は当然、相当の金銭を対価として質受けしているはずだから、代担保を提供する必要性はない、ということになります。
[自説の根拠]参考:大判S14.4.28 民集18巻484頁
10
不動産をめぐる権利主張において登記の要否が問題となる場面について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
甲土地を所有するAが遺言をしないで死亡したことによりAの配偶者と子HがAの相続人となった場合において,Aの配偶者から甲土地を買ったIに対し,Hは,相続登記をしなくても,甲土地について有する法定相続分に応じた持分の帰属を主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判(二小)S38.2.22 民集第17巻1号235頁(家族法百選〔第七版〕73事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121722585695.pdf
より抜粋。
—
相続財産に属する不動産につき単独所有権移転の登記をした共同相続人中の乙ならびに乙から単独所有権移転の登記をうけた第三取得者丙に対し、他の共同相続人甲は自己の持分を登記なくして対抗しうるものと解すべきである。
けだし乙の登記は甲の持分に関する限り無権利の登記であり、登記に公信力なき結果丙も甲の持分に関する限りその権利を取得するに由ないからである…。
—
元の判例は、父親が亡くなって、母親と子ども3人が共同相続した不動産を、子どもの一人が勝手に自分の単独所有登記をした上で第三者に売ってしまったので、母親と子ども2人がその不動産を返せと訴えた事例です。
結局、訴えた3人の持分だけは返ってきたものの、不動産を売ってしまった子どもの分の持分は第三者のものになってしまいました。
設問肢は売り払ったのが亡くなった方の配偶者になっていますが、考え方としては一緒ですね。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
遺産分割後である場合、登記を経なければ対抗できない。みたいな問題を見たような気がするのですが・・・
上の方
遺産分割後は対抗関係になるのはその通りですが、それはあくまで、配偶者の持ち分についてです。
Hの持ち分について、配偶者は単なる無権利者だということです。
11
法定地上権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Aが所有する土地上に,A所有の甲建物が建てられ,続けて,土地と甲建物にBのための抵当権が共同抵当として設定され,さらに,甲建物が取り壊されて同土地上にA所有の乙建物が新しく建築された後,乙建物に抵当権が設定されないまま,土地の抵当権が実行された結果,Cが土地の所有者になった場合,土地に乙建物のための法定地上権が成立する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。 (民法 388条)
最判平9.2.14 ・・・ でしょうか??
それでいいと思いますよ。
最判(三小)H9.2.14 平成7(オ)261号事件(民法百選Ⅰ〔第六版〕91事件)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/146F4AD06090AA1C49256A8500311DCD.pdf
より抜粋。
—
所有者が土地及び地上建物に共同抵当権を設定した後、右建物が取り壊され、右土地上に新たに建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しないと解するのが相当である。
—
[自説の根拠]自説の根拠は、上記判例です。
《土地・建物共同抵当での建物再築の場合》
抵当権者は共同抵当によって、土地および建物の全体価値を把握する意思であったはずであり、利用権の負担のない更地としての交換価値を抵当権者に把握させる必要がある。
したがって、この場合には新建物のために法定地上権は成立しない。
なお、判例は、抵当権者が新建物について新たに共同抵当権の設定を受けたような例外的な場合には法定地上権が成立するとしている。
[自説の根拠]自説の根拠は、最判平9.2.14
関連問題
法定地上権について、民法の規定、判例及び判決文に照らして適切か否か答えよ。
(判決文)
土地について1番抵当権が設定された当時、土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても、その後に抵当権が実行され、土地が競落されたことにより1番抵当権が消滅するときには、地上建物のための法定地上権は成立しないものと解するのが相当である。
更地である土地の抵当権者が抵当権設定後に地上建物が建築されることを承認した場合であっても、土地の抵当権設定時に土地と所有者を同じくする地上建物が存在していない以上、地上建物について法定地上権は成立しない。
12
建物建築工事の請負契約に係る完成建物の所有権の帰属について,材料を提供する者が請負人であっても原始的に注文者に帰属するとする見解があるが,次の記述について,この見解の論拠として適切か否か答えよ。
不動産工事の先取特権の規定が民法に設けられている。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
同一の動産について特別の先取特権が互いに競合する場合には、その優先権の順位は、次に掲げる順序に従う。この場合において、第二号に掲げる動産の保存の先取特権について数人の保存者があるときは、後の保存者が前の保存者に優先する。
1号 不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権 (民法 330条1項1号)
条文で以下の保護規定があるので完成建物の所有権が注文者に帰属したとしても不公平にはなりませんね。
不動産工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。
[自説の根拠]民法338条1項
【注文者帰属説】では、「請負人には建物所有の意思はなく、注文者も自己の所有を意図して工事を請け負わせているのだから、所有権は原始的に注文者に帰属させるのが当事者の意思である」と考えます。
そして、その根拠の一つとして、「民法の不動産工事先取特権の規定は、所有権が注文者に帰属することを前提としている」ことを挙げています。
**
※尚、従来の判例は【材料供給者帰属説】を採っていますが、近年では【注文者帰属説】が有力説となっているようです。
[自説の根拠]大判明37年6月22日、大判大3年12月26日
13
果実について、適切か否か答えよ。
受遺者は,遺言者がその遺言に別段の意思を表示しない限り,遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
関連する民法の条文を挙げておきます。
—
(受遺者による果実の取得)
第九百九十二条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
—
設問肢は、上記条文と同旨ですね。
[自説の根拠]自説の根拠は、上記条文です。
992条はノーマークだったので、「遺贈の履行の請求」とはなんぞや?と疑問に思いましたが、相続人に対して遺贈の義務を果たすように請求することですね。
(相続の一般的効力)
第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
[自説の根拠]民法896条,992条
14
動産の占有権の譲渡について、適切か否か答えよ。
動産の所有者であって寄託者であるAが,その受寄者であるBに対して,以後第三者Cのために動産を占有することを命じ,Cがそれを承諾したときは,Cは動産の占有権を取得する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。 (民法 352条)
指図による占有移転
代理人によって占有をする場合において、本人がその代理人に対して以後第三者のためにその物を占有することを命じ、その第三者がこれを承諾したときは、その第三者は、占有権を取得する。
[自説の根拠]民184条
関連問題
動産物権変動と動産の即時取得について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
動産の寄託者がこれを譲渡した場合において,寄託者が受寄者に対し以後譲受人のためにその動産を占有することを命じ,譲受人がこれを承諾したときは,譲受人は,その所有権の取得を第三者に対抗することができる。
15
共有について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
被相続人が遺言をしないで死亡したことにより相続人の共有となった財産の分割は,裁判所が判決手続によって行うことができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年07月06日)
○
「遺産相続により相続人の共有となつた財産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家事審判法の定めるところに従い、家庭裁判所が審判によつてこれを定めるべきものであり、通常裁判所が判決手続で判定すべきものではないと解するのが相当である。」(最判昭和62年9月4日)
[自説の根拠]自説の根拠は、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319132519612197.pdf
民法907条2項「遺産の分割について、共同相続人間に協議が整わないとき、または協議をすることができないときは各共同相続人はその分割を家庭裁判所に請求できる。」
裁判所の判決手続きではなく、家庭裁判所の審判手続きということですね。
今勉強中の仲間に、息抜きコメントを送る
1
2005年1月,AはBに建物建築資金を融資し,Bの所有する甲土地に根抵当権の設定を受け根抵当権設定登記を得た。その後Bは自分自身で建物を建築することを断念し,甲土地を期間20年の約定でCに賃貸し,Cが甲土地上に乙建物を建築した。
次の事例について、適切か否か答えよ。
Aや,甲土地の根抵当権が実行された場合の甲土地の買受人Dに対して,Cが甲土地の賃借権を対抗できる方法はない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
それと、この問題は合格者の大部分は正解していますので、大事にして下さい。
ご指摘を受けたので、調べてみました。出典が「新司法試験プレテスト民事系試験短答式問12」と言うところまでは判りました。私のコメントは引っ込めます。ただ、名誉挽回と思い調べたんですが、果たして設問のように競売後に賃借権の登記が出来るものかどうか、です。
どう考えても買受人まで巻き込んで賃借権の登記の同意にはムリがあるようなんですが、その点はどうなんでしょうか。
「買受人まで巻き込んで賃借権の登記の同意にはムリがある」というchukun さんのご指摘が正しいです。
私のコメントの「登記はこれからすれば良いのです。」の部分を撤回します。
競売までに抵当権者の同意登記が具備されていなければ、買受人は賃借権の負担がないものとして甲土地を買います。したがって、買受人が賃借権の存続に同意する可能性は、まずありませんでした。
ご指摘ありがとうございました。誤解した方がおられましたら、お詫び申し上げます。
抵当権に優先する合意の登記は、目的物が賃貸マンションやテナントビルの場合にメリットがあります。
買受人が自ら使用する訳ではない上記のような物件の場合、抵当権に劣後する賃借人が、抵当権実行により退去されると、新たに賃借人を募集しなければならず、物件自体の価値が下落してしまいます。
①賃借人は、抵当権実行があった場合でも退去する必要がない。
②ということは、買受人は当初から賃料収入が見込める。
お互いのメリットがあるわけですね。
2
特定の動産(以下「甲」という。)の取引について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
AはBに甲の所有権を譲渡したが,現実の引渡しも占有改定の合意もされなかった。その後,AがCに甲を預けたとすると,受寄者Cは,Bの対抗要件の欠缺を主張して,その返還請求を拒むことができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
受寄者は動産「甲」の利害関係の無いものなので第三者には当たらず、Bに対して対抗することは出来ない。
[自説の根拠]昭和29・8・31
3
Aは,甲土地と甲土地上の未登記の乙建物を共に,BとCに二重に売却する契約を結んだ。
この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
Bが既に甲土地について移転登記を得ている場合には,Cは善意であっても甲土地はもとより,甲土地上の乙建物の所有権も取得することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
判例(最高裁昭和57.2.18)では、私権の目的となりうる不動産の取得については、当該不動産が未登記であっても、民法177条の適用があるとしています。
土地と建物は別個の不動産なので、甲土地の所有権がBに移転していても、Cが乙建物の登記を備えれば、Cは乙建物の所有権を取得することができます。
尚、未登記建物の買主であっても、売主に対して移転登記の請求ができます。(最高裁昭和31.6.5)
[自説の根拠]・民法177条(不動産に関する物権変動の対抗要件)ほか
この場合、Cが建物の所有権を取得できたとしても、建物の存する土地の所有権はBであるため、Bから地上権又は土地賃借権の設定を受けなければCは建物の使用をできないのでしょうか?。
それとも、Cの登記と同時に地上権、もしくは賃借権(Bにとってみれば自分の土地上に他人の建物があるのは納得がいかないから)が設定されるのでしょうか?。
[自説の根拠]わが家の庭に、勝手に他人の家が建っているということにはならないのでしょうか・・・。
設問のケースにおいては、Cが乙建物の所有権を取得し、建物登記を具備したとしても、土地利用権(地上権、賃借権など)が無い可能性が大です。
(もともと、土地と建物の所有者が同一であったため建物に土地利用権が無いのが通常です)
したがって、Cとしては、Bとの間で土地賃貸借契約を締結するなどの手だてを取らないと、甲土地上に無権限で建物を所有していることになります。
そうすると、Bから土地明渡請求を受けた場合、Cは立ち退かざるを得ないということになります。
[自説の根拠]「成川式マトリックス六法・民法」PHP研究所
4
根抵当権について、適切か否か答えよ。
根抵当権も元本が確定すれば普通抵当権と同じに扱われるから,被担保債権の利息や損害金のうち根抵当権によって担保される部分は,最後の2年分に限定される。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。 (民法 398条の4)
第398条の3 1項
根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
最後の二年分以外は、無担保債権として残る。
関連問題
担保物権の効力について、適切か否か答えよ。
根抵当権でない抵当権は,担保する債権の元本のほか,利息その他の定期金のうち満期となった最後の2年分に限り,それらを担保する。
5
甲動産を所有するAが,これをBに売り,さらにBがCに譲渡したが,AがBから代金の支払を受けていない場合の法律関係に関する以下の記述について,判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
甲動産がAからBへ,さらにBからCへ売買により引き渡された場合,Aは,動産売買先取特権の行使として,甲動産を差し押さえることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
第三百三十三条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
動産をCに引き渡された場合、Aは当該動産に先取り特権を行使できないが、C~Bに対し金銭が支払われる前であれば、これを差し押さえ、物上代位は可能
6
民法の規定にある「本権の訴え」の概念について、適切か否か答えよ。
一般先取特権は,物を占有する権利を含まない物権であるから,それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
一般の先取特権
1.共益費用
各債権者の共同の利益のためにされた債務者の財産の保存、清算、または配当に関する費用(民法307条1項)
2.雇用関係
給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた費用(民法308条)
3.葬儀の費用
債務者のためにされた葬式の費用のうち相当の額(民法309条)
4.日用品の供給
債務者またはその扶養すべき同居の親族およびその家事使用人の生活に必要な最後の6箇月間の飲食料品、燃料および電気の供給
一般先取特権は、債務者の総財産を目的とするもので、特定財産を目的とするものではないから返還請求権を行使することはできません。
7
物上代位について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
抵当権者は,抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き,その賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
ずばり本肢は判決文の文言そのものです
この判決の背景には、抵当不動産の債権回収とそれに対する執行妨害的行為との間の手練手管の類いの攻防の流れがある
これに対応する判例の変遷中であらいだされてきた抵当権の物上代位に関する問題点は、平成15年の法改正で一応整備されました
担保不動産の収益執行制度(いわゆる賃料債権に対する物上代位)がそれです
ただ、本問のような転貸のケースにおける「所有者と同視することを相当とする場合」の問題が微妙なグレーゾーンとして残っています
[自説の根拠]細かくはここに書ききれませんが、このような流れに沿って、判例とその要旨、趣旨をおさえていくと、単なる科目の羅列的な事項も有機的に連関して覚えやすいかと、だいぶ蛇足のようですが
民法三七二条によって抵当権に準用される同法三〇四条一項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。
[自説の根拠]平成11(許)23 債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件 平成12年04月14日
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120648965547.pdf
A抵当権者
B債務者で抵当不動産所有者
C抵当不動産賃借人で転貸人
D抵当不動産転借人
この場合Aは、BC間の賃料債権に物上代位権を行使することができますが、CD間の「転賃貸料債権」には原則物上代位権を行使することができません。
ただし、
所有者の取得すべき賃料を減少させ、または抵当権の行使を妨げるために法人格を濫用し、または賃貸借を仮装したときなど、
抵当不動産の賃借人を所有者と同視できる場合は「転賃貸借債権」に物上代位権を行使することができます。
[自説の根拠]自説の根拠は、成美堂行政書士テキスト
関連問題
物上代位について、民法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
なお,物上代位を行う担保権者は,物上代位の対象とする目的物について,その払渡し又は引渡しの前に他の債権者よりも先に差し押さえるものとする。
抵当権者は,抵当権を設定している不動産が賃借されている場合には,賃料に物上代位することができる。
8
抵当権の法律関係について、適切か否か答えよ。
登記をした賃貸借は,その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をすれば,その同意をした抵当権者に対抗することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。 (民法 387条)
同意の登記も必要です。
—
(抵当権者の同意の登記がある場合の賃貸借の対抗力)
第387条
登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。
2 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。
同意の登記がないので×。
関連問題
次の説明は、抵当権に関する記述である。
登記された賃貸借は,その登記前に抵当権の登記をしている抵当権者のすべてが,その賃借権に対抗力を与えることに同意し,かつ,その同意の登記があるときは,その同意をした抵当権者に対抗することができる。
9
相続と登記について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
被相続人Aから相続開始前に甲不動産を買い受けたXは,Aの唯一の相続人Bの債権者YがBに代位して甲につきBの相続登記をした上で甲を差し押さえた場合,登記がなくても,甲の所有権取得をYに対抗することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
Bは包括承継人ですので、Aの地位を承継しています。そこで、Bの債権者Yは、Bに代位して甲不動産の相続登記をすることができ、さらにこれを差し押さえることで、民法第177条における「第三者」にあたることになります。
したがって、XとYは対抗関係に立ち、Xは登記を得なければ甲不動産の所有権をYに主張することができない。
関連問題
次の説明は、不動産と登記に関する記述である。,判例の趣旨に照らして答えよ。
Aの所有する甲土地につきAがBに対して遺贈する旨の遺言をして死亡した後,Aの唯一の相続人Cの債権者DがCを代位してC名義の所有権取得登記を行い,甲土地を差し押さえた場合に,Bは,Dに対して登記をしていなくても遺贈による所有権の取得を対抗できる。
10
Aが土地所有者Bから賃借した土地上に所有している甲建物についてCのために抵当権を設定した場合について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
AがBに対し,甲建物を売り渡した後,抵当権が実行され,甲建物をEが買い受けた場合,法定地上権は成立しない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
抵当権設定時に所有者が別なので法定地上権は成立しない。
[自説の根拠]民法388条
法定地上権の成立要件
・抵当権設定当事に、土地上に建物が存在すること。
・抵当権設定時に、土地と建物が同一の所有者である。
・土地、建物の一方又は双方に抵当権が設定された。
・抵当権の実行により所有者が同一でなくなった。
以上4つがすべて満たされたときに成立します。
11
相隣関係について、適切か否か答えよ。
判例によれば,袋地(他人の土地に囲まれて公道に通じない土地)を買い受けた者は,所有権移転登記をしなければ,囲繞地(袋地を囲んでいる土地)の所有者に対し,公道に至るためにょう囲繞地を通行する権利を有することを主張することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
通行権確認請求判例
袋地の所有権を取得した者は、所有権取得登記を経由していなくても、囲繞地の所有者ないし利用権者に対して、囲繞地通行権を主張することができる。
[自説の根拠]最判S47.4.14
12
留置権について、適切か否か答えよ。
留置権は,担保されるべき債権の債権者が目的物を占有していなければ成立せず,仮に占有していても,その占有が不法行為によって始まった場合には成立しない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。 (民法 295条2項)
◆留置権の成立要件
・他人の物を占有していること。
・債権が目的物に関して生じたものであること。
・債権が弁済期にあること。
・占有が不法行為によって始まったのではないこと
[自説の根拠]民法第295条1項と2項
13
Aは,Bのために,AがCに対して有する指名債権である金銭債権を目的として,質権を設定し,Cに対して質権の設定を通知した。この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
Cは,質権の設定の通知を受けるより前にAから目的債権について債務の一部の免除を受けていたときは,目的債権の一部が消滅したことをBに対して主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。 (民法 366条4項)
指名債権を目的とする質権の対抗要件は、債権譲渡と同様とされますので(民法第364条)
債務者の抗弁も同法第468条が準用されます。
つまり、Cは通知を受けるまでにAに対して有していた抗弁自由(債務の一部免除)をBに対しても主張できます。
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第468条(略)
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
(指名債権を目的とする質権の対抗要件)
第364条 指名債権を質権の目的としたときは、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者に質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。
*Aが第三債務者Cに「質権の設定を通知し」ただけでは、第468条2項によりCは、その通知を受けるまでに譲渡人Aに対して生じた事由(目的債権の一部が消滅したこと)をもって譲受人Bに対抗することができるのですね。
[自説の根拠]民法第364条、第468条2項
↑コメントがわかりにくいので整理しました。誤りあればご指摘ください。
-1
指名債権を質権の目的としたときの対抗要件は
①第三債務者(本問ではC)に質権の設定を通知
または
②第三債務者(本問ではC)の承諾
[民法第364条]
である。
-2
しかし、上記①(通知)のみの場合は
①´債務者(本問ではC)は、その通知を受けるまでに譲渡人(本問ではA)に対して生じた事由をもって譲受人(本問ではB)に対抗することができる。
[民法第468条2項]
[自説の根拠]民法第364条、第468条2項
14
Aは,Bのために,AがCに対して有する指名債権である金銭債権を目的として,質権を設定し,Cに対して質権の設定を通知した。この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
Aは,目的債権の消滅時効中断のために必要があるときは,Cを被告として,債権存在確認の訴えを提起することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
裁判上の請求をすることで、時効は中断します。
この裁判上の請求とは、訴えを提起することを言い、「給付の訴え」「確認の訴え」「形成の訴え」のいずれでも良い、とされています。
債権を目的とする質権設定がされた場合、取立権は質権者に移転し、質権設定者は自ら目的債権の取立てを行うことはできなくなります。(民366条1項、大判大正15年3月18日)
そこでこの事例のように、取立権を有しない質権設定者であるAが、消滅時効中断のための債権存在確認の訴えを提起できるのかが問題となりますが、判例は、「質権設定者は債権の取立権は有しないとしても、債権者であることに変わりはないため、確認訴訟によって質入債権の時効中断を行うことは可能である」旨判じています。
従って、○です。
[自説の根拠]大判昭和5年6月27日、大判昭和12年7月7日
15
Aは,その所有する不動産を目的として,Aの債権者であるBのために譲渡担保権を設定し,所有権移転登記をした。この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
Aが弁済期に債務を弁済しないため,Bが目的不動産を第三者に譲渡し所有権移転登記がされた場合,譲受人がいわゆる背信的悪意者であるときは,Aは残債務を弁済して目的不動産を受け戻し,譲受人に対し,所有権の回復を主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。 (民法 369条)
譲渡担保は民法に規定なく、判例により確立された非典型担保。法律構成として所有権的構成(形式重視・債権者が所有者)と担保的構成(実質重視・債務者が所有者)があり、所有権的構成が通説。
債務者と第三者は二重譲渡の関係(所有権的構成)、悪意の第三者でも登記があれば、対抗できる(民法177条)。背信的悪意者は保護されない。
しかし、
判例は第三者救済のため正論をねじ曲げ、背信的悪意者をも保護した。理由はymryua1001さんのとおり
「債務者がその所有不動産に譲渡担保権を設定した場合において,債務者が債務の履行を遅滞したときは,債権者は,目的不動産を処分する権能を取得し,この権能に基づき,目的不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に⋯⋯換価処分し,⋯⋯譲渡担保権者が清算金の支払いやその提供または清算金が生じない旨の通知をせず,かつ,債務者も債務の弁済をしないうちに,債権者が目的不動産を第三者に売却等したときは,債務者はその時点で受戻権ひいては目的不動産の所有権を終局的に失い,同時に被担保債権消滅の効果が発生する」
[自説の根拠]最判昭和62年2月12日(民集41巻1号67頁)
「不動産譲渡担保において,弁済期到来にもかかわらず債務者が債務の弁済をしない場合には,債権者(譲渡担保権者)は,⋯⋯債権者がこの権能に基づいて目的物を第三者に譲渡したときは,原則として,譲受人は目的物の所有権を確定的に取得し,債務者(譲渡担保権設定者)は,清算金請求権を行使しうるにとどまり,もはや目的物を受戻すことはできなくなるものと解するのが相当であるとし,さらに,この理は,譲渡を受けた第三者がいわゆる背信的悪意者に当たる場合であっても異なるところはない」
[自説の根拠]最判平成6年2月22日(民集48巻2号414頁)
関連問題
譲渡担保について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
譲渡担保権者が,被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合,譲渡担保を設定した債務者は,譲受人がいわゆる背信的悪意者に当たるときでも,債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができない。
今勉強中の仲間に、息抜きコメントを送る
1
以下の記述は、ある用語の具体例ならびに説明である。その用語としてふさわしいものを選べ。
土地の構成部分となって土地の所有権に吸収される物。明認方法を施すことにより,独立の物としての取引が可能な物。権原ある者が附属させると,その者の所有に属する。立木ニ関スル法律に規定する立木。建物。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
定着物
(不正解) 従物
定着物(ていちゃくぶつ)とは建物や立木などのような、土地に継続的に付着し、そのままの状態で使用されることがその物の性質であると考えられるものをいう。
定着物とされるためには、土地への固定的付着がある程度継続性を持たなければならず、一時的なもの、例えば、自動車でひいていけるような移動式建物のようなものは、定着物とはいわない。仮植中の樹木なども同じである。
定着物は建物、立木、石垣その他という三つの型に分けられる。
[自説の根拠]ウィキペディアより抜粋
●定着物
・土地の一部と認められ、独立した取引の対象とならない
→石垣、井戸、敷石
・土地とは別個の不動産として、独立した取引の対象となるもの
→建物
立木はどちらにもなりえるもの
●従物
石灯籠や取り外す事の出来る庭石は従物
→土地から分離可能であり定着物ではない。
2
2005年1月,AはBに建物建築資金を融資し,Bの所有する甲土地に根抵当権の設定を受け根抵当権設定登記を得た。その後Bは自分自身で建物を建築することを断念し,甲土地を期間20年の約定でCに賃貸し,Cが甲土地上に乙建物を建築した。
この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
Aは,Cが乙建物を建築した時点以降は,BのCに対する賃料債権につき,甲土地に対する収益執行手続か抵当権に基づく物上代位手続のいずれかを自由に選択して,優先権を主張することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
抵当権者は、その担保する債権について債務不履行があったときは、債務者が有する賃料債権を差押えることによって、物上代位することができます。(民法371条、304条)
また、抵当権者は、被担保債権の債務不履行が生ずれば抵当権の実行としての担保不動産収益執行の申立てができます。(民事執行法180条2項)
そして、抵当権者は、物上代位と担保不動産収益執行のいずれかを選択して優先権を主張できます。
しかしながら、その優先権の主張は、債務不履行になったとき以降であるため、設問の記述は誤りです。
[自説の根拠]「民法Ⅲ債権総論・担保物権」内田貢(東京大学出版会)
3
Aは,Bから甲土地を買って所有しているとして,甲土地を占有しているCに対し,所有権に基づき甲土地の返還請求訴訟を提起した。同訴訟において,Cは,「確かに,自分は甲土地を占有している。しかし,AはDに甲土地を売り,自分はDから甲土地を買った。」と主張して争っている。
この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。ただし,すべての売買契約について,代金支払と甲土地の引渡しはされているもの(売買契約の事実が証明されたときはこれらの事実も証明されたもの)とする。
Aは,Cに所有権以外の占有権原がないことを主張立証しなければ,敗訴する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
『民事訴訟法における証明責任の分配基準』
いかなる事実について、いずれの当事者に証明責任を負担させるかの定めのことで、原則として、各当事者は自己に有利な法律効果の発生を定める法規の要件事実について証明責任を負います。
占有権限はそれを主張する者に立証責任があるので、この問題においては、AはCに占有権限がないことを立証する必要はありません。
※民事訴訟法は行政書士試験の範囲外ですので、深入りする必要はないと思います。
ただ、要件事実を問う問題は民法を理解する参考にはなるかと・・・
判例より「他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。」
「模範六法 2008」(C)2008(株)三省堂
[自説の根拠](最判昭35.3.1民集14-3-327)
判例より「他人の不動産を占有する正権原があるとの主張については、その主張をする者に立証責任があると解すべきである。」
「模範六法 2008」(C)2008(株)三省堂
[自説の根拠](最判昭35.3.1民集14-3-327)
4
Aは,Bから甲土地を買って所有しているとして,甲土地を占有しているCに対し,所有権に基づき甲土地の返還請求訴訟を提起した。同訴訟において,Cは,「確かに,自分は甲土地を占有している。しかし,AはDに甲土地を売り,自分はDから甲土地を買った。」と主張して争っている。
この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。ただし,すべての売買契約について,代金支払と甲土地の引渡しはされているもの(売買契約の事実が証明されたときはこれらの事実も証明されたもの)とする。
A主張の甲土地の所有権取得が認められた場合,Cは,AがDに甲土地を売った事実を主張立証するだけでなく,Dが対抗要件である所有権移転登記を備えた事実も主張立証しなければ,敗訴する。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
A主張の甲土地の所有権取得が認められたとすれば、CはAがDに甲土地を売った事実を立証すれば、AはCの前所有者に過ぎず、第三者に該当しないと思われるので、たとえ登記名義がAにあったとしてもCはAに対抗できると思われます。(最判昭25.12.19を参考に考えました。)
[自説の根拠]自説の根拠は、最判昭25.12.19
所有権移転登記が必要なのは、AがDとの売買契約を解除したことを主張した時。現状の問題文では、そのような主張もされていないし、Aがそろ主張をしてCが登記を有していない場合でも、直ちに敗訴はしない。(Aが登記を有している場合は、敗訴するが、BやDが登記を有しているなら、先に移転登記を備えたもの勝ち)
この手の問題は取引の流れが、「直線的か、枝分かれか」に着目して考える事ですね
「Dが対抗要件である対抗要件である所有権移転登記を備えた事実」の主張立証は必要としない。
何故なら、CはAがDに甲土地を売った事実を立証したのであれば、Aは係る売買の当事者であり、民法177条の第三者ではないから。
本問において、最判昭25.12.19を例にAが第三者に該当しないと導くは的外れである。
同判例は不法占拠者は民法177条の第三者に該当しないとするものであるからである。
民事訴訟法の一般論として、原則、自己に有利な法律効果の発生を求める者は、その要件事実について証明責任を負います。
誰が何を立証しなければならないか?単純にそこを問われている問題ではないでしょうか?
証明責任の分配(法律要件分類説)
[自説の根拠]証明責任の分配(法律要件分類説)
関連問題
Aが所有者として登記されている甲土地の売買契約について、民法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
Aと売買契約を締結して所有権を取得したEは,所有権の移転登記を備えていない場合であっても,正当な権原なく甲土地を占有しているFに対し,所有権を主張して甲土地の明渡しを請求することができる。
5
物上代位について、適切か否か答えよ。
判例によれば,債務者が破産した後であっても,動産売買先取特権に基づく物上代位権も抵当権に基づく物上代位権も行使できる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判昭59.2.2
債務者が破産宣告を受けた場合においても、その効果は所有財産に対する破産者の管理処分権が剥奪されること、破産債権者による個別的な権利行使が禁止されることにとどまり、これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではないから、動産売買の先取特権者は、債務者(買主)が破産宣告を受けた後においても、その動産転売代金債権につき物上代位権を行使して差押・転付命令を求めることができる。
「債務者が破産した後の抵当権に基づく物上代位」破産手続後、抵当権設定されている不動産からの賃料差し押さえが該当するのでしょうか。
6
次の記述について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
占有者が賃借権に基づき占有を取得した事実や外形的客観的に占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかったと解される事情が証明されれば,20年以上占有が継続したとしても,時効取得は認められない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
民法一八六条一項の規定は、占有者は所有の意思で占有するものと推定しており、占有者の占有が自主占有にあたらないことを理由に取得時効の成立を争う者は右占有が所有の意思のない占有にあたることについての立証責任を負うのであるが、右の所有の意思は、占有者の内心の意思によつてではなく、占有取得の原因である権原又は占有に関する事情により外形的客観的に定められるべきものであるから、(以下続く)
占有者がその性質上所有の意思のないものとされる権原に基づき占有を取得した事実が証明されるか、又は占有者が占有中、真の所有者であれば通常はとらない態度を示し、若しくは所有者であれば当然とるべき行動に出なかつたなど、外形的客観的にみて占有者が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情が証明されるときは、占有者の内心の意思のいかんを問わず、その所有の意思を否定し、時効による所有権取得の主張を排斥しなければならないものである。
[自説の根拠]昭和57(オ)548 土地所有権移転登記手続 昭和58年03月24日 最高裁判所第一小法廷
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319122058649505.pdf
7
相続と登記について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
被相続人Aから甲不動産をBと共に共同相続したXは,Bが甲を単独相続した旨の登記をした上でYに売却し,Yが所有権移転登記を備えた場合,Yに対し,この所有権移転登記の全部抹消を求めることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
相続開始後、遺産分割が実施されるまでは、共同相続された不動産は共同相続人全員の共有に属し、各相続人は当該不動産につき共有持ち分を持つことになるので、その不動産が相続人に1人の単独所有の登記名義を有しているときは、他の相続人は、その者に対し、共有持分権に基づく妨害排除請求として、自己の持ち分についての一部抹消等の登記手続を請求することができる。
登記の全部抹消→×
自己の持分についての一部抹消→○
[自説の根拠]【判例】最高裁昭和53.12.20判決
8
A,B及びCが各3分の1の持分で甲土地を共有している場合について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
A,B及びCが共同して甲土地を第三者に賃貸している場合,第三者がその賃料の支払を怠ったときの賃貸借契約の解除は,AとBとですることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
民法252条本文
—
(共有物の管理)
第252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法二五二条にいう「共有物ノ管理ニ関スル事項」に該当し、右貸借契約の解除については民法五四四条一項の規定の適用が排除される」
[自説の根拠]自説の根拠は、最判昭和39年2月25日民集第18巻2号329頁
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121310093619.pdf
(解除権の不可分性)
第544条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
最判昭和39年2月25日の判例(すでに確立している、そうです)によれば、上記(民544Ⅰ)の適用が排除される、
ということは、
民252の管理行為として、持分権の過半数で解除できる。本問では、3人全員からでなくとも、A&Bで解除できる。(Aだけだったならできない。)
ということですね
いい勉強になります、ありがとうございます
[自説の根拠]上の方のコメントから
《共有物の管理行為》
①共有物の賃貸
②賃貸借契約の解除・取消し
③無利息の貸金を利息付に改める行為
以上は管理・利用・改良行為であり、持分の価格の「過半数」の同意がいる
9
買戻特約付売買の買主から目的不動産につき抵当権の設定を受けた者は,抵当権に基づく物上代位権の行使として,買戻権の行使により買主が取得した買戻代金債権を差し押さえることができるとする見解がある。この見解に関する次の記述について,当該見解の論拠とすることができるか否か答えよ。
買戻権は留保された解除権であるところ,法定解除の法的構成ないし効果に関する直接効果説の立場に従えば,解除(買戻権の行使)によって売買契約は遡及的に消滅し,買戻特約の登記後にされた処分はすべて効力を失うのであって,買主が目的不動産上に設定した担保物権も初めからなかったことになる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
「解除(買戻権の行使)によって売買契約は遡及的に消滅し、(中略)買主が目的不動産上に設定した担保物権も初めからなかったことになる」のであれば、
買戻特約付売買の買主が、目的不動産に設定した抵当権も初めからなかったことになるので、抵当権に基づく物上代位権も行使できません。
よって、設問の記述を設問見解の根拠とすることはできません。
国語読解力で回答を導けますが、参考までに
直接効果説は解除によって、契約から生じた効果は遡及的に消滅する。
未履行債務は消滅し、既履行債務は不当利得となる。
直接効果説における、民法545条1項但書の第三者保護規定、545条3項の損害賠償義務
解除により契約が存在せず、第三者は帰責事由もないのに目的物を取得できないことになるため、民法545条1項但書で第三者保護を規定。解除により契約が存在せず、損害も最初から発生していないことになるため、民法545条3項で損害賠償義務を保護規定。
[自説の根拠]間接効果説は解除により契約自体は消滅しない。原状回復義務が発生し、これが履行されると契約は消滅する。
未履行債務については、債務者に履行拒絶権が発生し、既履行債務は原状回復義務が発生し、これが履行されると契約は消滅する。
10
留置権について、適切か否か答えよ。
留置権者は,目的物から優先弁済を受けることはできないが,目的物から生じた果実からは優先弁済を受けることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 (民法 295条)
(留置権者による果実の収取)
第297条
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
2 前項の果実は、まず債権の利息に充当し、なお残余があるときは元本に充当しなければならない。
担保物権の通有性の1つである優先弁済効は認められないが、事実上の優先弁済効が留置権には認められるという典型問題。
[自説の根拠]収受果実で相殺できるというのが明文で書いてないので、何度も同じ問題が出て何度も間違える人間が出るとこですね。ここは条文のみ読んでも全く答えにたどり着けません。
fujiyamaさんのコメントはまったくデタラメです。
果実収取権は「事実上の優先弁済」ではなく、法文上も優先弁済を認めています(297条1項)。
[自説の根拠]民297条1項
留置権とは、他人の物の占有者が、その物を留置することにより、債務者に心理的に圧力をかけて弁済を促そうとするものです。
だとすると、留置権には、その物の交換価値の把握を目的とする効果である、物上代位や優先弁済という効力は認められないということになります。
つまり、法律上の優先弁済的効力は認められていないけど、他の制度の反射的利益として、優先弁済があるという意味で、「事実上の優先弁済的効力」があると言われています。
[自説の根拠]フォーサイトテキスト 民法
だ・か・ら
ちゃんと条文を読めばわかります。
「留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。」(297条1項)
↑
果実については法文上明白に優先弁済を認めているので、「事実上の」ではありません。事実上ってのは、果実収取権とは別の問題です。
余談ですが、「事実上の優先弁済」について
不動産留置権の場合、競売によっても消滅せず、留置権者は弁済を受けるまでは留置物の返還を拒絶することができるため(民事執行法59条4項,188条)、買受人は留置権の被担保債権を弁済しなければ所有権を取得した留置目的物の引渡しを受けることができない。
動産留置権の場合、不動産とは異なり、他の債権者はまず動産留置権を被担保債権の弁済によって消滅させなければ、事実上,留置目的物の差押えができない。
よって事実上優先弁済を受けることができる。
[自説の根拠]kobabeeさんの解説は簡潔でわかりやすい解説。
fujiyamaさんとmisa1103さんの解説は本問の趣旨を超越した丁寧な解説。
(留置権者による果実の収取)
第二百九十七条
留置権者は、留置物から生ずる果実を収取し、他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができる。
留置権には、他の担保物権と異なり、実体的権利として優先弁済権がありません。
ただし、留置権者には,果実収取権があります。他の債権者に先立って、これを自己の債権の弁済に充当することができます。
つまり、目的物からの優先弁済権はありませんが、果実収取権が「事実上の優先弁済」にあたるという事です。問題文そのままですね。
[自説の根拠]民法297条1項
fujiyamaさん、misa1103さん、hallelujahさん、おっしゃる通りです。
ありがとうございます。
http://www.matsubara.lawyers-office.jp/debtcollection7.html
関連問題
次の説明は、担保物権の効力に関する記述である。
抵当権には目的物を換価して優先弁済を受ける効力があり,抵当権者はこのような優先弁済的効力を登記なくして第三者に対抗することができる。
11
先取特権及び質権について、適切か否か答えよ。
一般の先取特権を有する債権者は,債務者がその所有物の代償として支払を受けた金銭についても,先取特権を行使することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
賃貸人は、敷金を受け取っている場合には、その敷金で弁済を受けない債権の部分についてのみ先取特権を有する。 (民法 316条)
《代償請求》
一般の先取特権には,債務者の総財産に対して及ぶので,物上代位は認められないが,目的物の代償ともいえる利益を受けている場合には,その限度で利益の償還を請求することができる。
「代償請求権では、引渡前の差押え、が要件となるか」についてですが、受領後でも認められており、引渡前の差押えは要件になりません。最判昭和41年12月23日も、保険金を取得した後に請求(敷金の返還と相殺)した事例があるそうです。
[自説の根拠]行政書士合格道場掲示板等
↑この問題は代償請求権を考慮・検討する必要はなく、一般の先取特権は債務者の「総財産上」に成立する、ということだけで行使可能ということが明らかです。
下手に代償請求権の内容を考えると混乱し、間違える可能性があります(たとえば、厳密にいうと代償請求権の行使はもはや先取特権の行使ではなく、問題を異にする話ですので文末の「先取特権を行使することができる」は代償請求権と考えると馴染まないものです。)。
<一般>先取特権
★一般先取特権は、債務者の総財産を対象とするので、対象とする財産の範囲が広く他の残った財産から対応しやすいので物上代位の問題が生じない
<不動産>先取特権
★不動産先取特権は登記がなされると追及力があり第三者に渡っても権利行使ができるので物上代位は重要ではない
<動産>先取特権
★動産先取特権の場合は追及力がないので目的物の売買代金に物上代位を認める意義があり実際に物上代位が活用されている
理由と一緒に覚えれば覚えやすいかもしれません
12
Aは,Bのために,AがCに対して有する指名債権である金銭債権を目的として,質権を設定し,Cに対して質権の設定を通知した。この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
Aは,第三者に対して目的債権を譲渡することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
指名債権質権が設定されても、設定者は目的債権を第三者に譲渡することができます。(466条1項)
したがって、設問の記述は誤りです。
尚、この場合、質権者が対抗要件(364条、467条1項)を備えていれば、譲受人は質権設定者と同様の拘束を受けることになります。(質権者は譲受人に質権を対抗できる)
[自説の根拠]「成川式マトリックス六法・民法」PHP研究所
指名債権を質権の目的とでぃた場合の対抗要件は、債権譲渡の場合と同じく、「第三債務者に対する通知または第三債務者の承諾」です。
なお、権利質の質権者は、質権の目的となっている債権を直接取り立てることができます(366条1項)
13
法定地上権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Aが所有する土地に,その更地としての評価に基づき,Bのための抵当権が設定され,続けて,土地上にA所有の建物が建てられた後,抵当権が実行された結果,Cが土地の所有者になった場合,土地に建物のための法定地上権は成立しない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。 (民法 388条)
建物収去土地明渡請求判旨より;
「抵当権設定の当時、当該建物は未だ完成しておらず・・(中略)・・更地としての評価に基き抵当権を設定したことが明らかであるときは、たとえ抵当権者において建物の築造をあらかじめ承認した事実があつても」法廷地上権は認められない。
[自説の根拠]最判S36.2.10
基本的に更地のほうが建物が建っている土地よりも評価が高いんです。
更地なら好きに使えますけど建物が乗っているとそれを壊す必要がありますから。
だから、更地として評価した上で抵当権を設定したBを保護するための規定ですね
関連問題
Aは,Bに対する債務を担保するため,BのためにA所有の甲地に抵当権を設定し,この抵当権が実行されてCが甲地を買い受けた。
Bのための一番抵当権設定当時甲地は更地であったが,Fのために二番抵当権が設定される前に甲地に建物が建てられた場合,Fの申立てに基づいて土地抵当権が実行されたときは,この建物のために法定地上権が成立する。
14
動産の占有権の譲渡について、適切か否か答えよ。
動産の所有者であって賃貸人であるAの承諾を得て,賃借人であるBが,その賃借権を第三者Cに譲渡し,動産を引き渡した場合,Bは動産の占有権を失う。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
本問の場合、引き渡しも完了し、賃借権は譲渡されている為、Bの占有権は喪失します、よって正しい記述です。
[自説の根拠]民法182条1項
占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅します。(203条)
Bが賃借権をCに譲渡した場合、Bが占有の意思を放棄したと認められます。
また、Cに動産を引渡したことにより、Bは占有物の所持を失います。
したがって、Bの動産の占有権は消滅することになります。
[自説の根拠]民法203条(占有権の消滅事由)
関連問題
次の説明は、占有権に関する記述である。
土地の所有者が自己所有地を他人に賃貸して土地を引き渡した場合,土地の占有権は賃借人に移転するから,所有者は土地の占有権を失う。
15
質権について、適切か否か答えよ。
動産質の質権者が第三者に占有を奪われた場合,質権に基づいて返還請求をすることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年07月06日)
×
(質物の占有の回復)
第353条 動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。
勉強頑張ってるね。今、300問目。ここら辺で少しブレイク♪
お見事!! 本日300問達成記念。和歌山県・三段壁(南紀白浜)の写真で一休み♪
1
特定の動産(以下「甲」という。)の取引について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
甲について自己の所有権の取得原因事実を証明した者から返還請求を受けた占有者が,即時取得を理由に請求を拒むためには,自分が前主との有効な取引によって過失なく甲の占有を取得したことを抗弁として主張立証しなければならない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
したがって、
結局本問が×なのは、「過失なく」の部分と、要件事実が1つ足りないということ。
本肢の他の要件事実は抗弁に必要ですよ、念のため。
つまり正しくは
①前主との有効な取引によって②占有を取得したこと(本肢は過失を引き算すると、ここまでしか書いてない)
プラス、
③前主が甲動産を占有していたこと。
[自説の根拠]上記のコメント等
単純に、無過失は推定されるので(188条)、これを立証する必要があるのは占有者ではなく請求者
よって×でよいかと。
無過失の立証責任があるのは、162条の所有権の時効取得の場合ですね。
『取得時効を主張する者が、その不動産を自己の所有と信じたことにつき無過失であったことの立証責任を負う』(最判昭46.11.11)
立証責任に関しては、行書にはあまり関係ないような気もしますが、比較して押さえておくといいかも。
2
登記請求権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
通行地役権の承役地を譲り受けた者は,未登記の通行地役権者に対して背信的悪意者に当たらない場合でも,通行地役権の存在を否定できない場合があり,この場合には,通行地役権者は,地役権設定当事者ではないこの所有権者に対しても,地役権設定登記を求めることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
平成10・12・18 民法280条
問題文がイメージしにくいので具体例で。
Aは土地を譲渡されたが、その土地にはBの未登記の通行地役権が設定されており、道路が敷設されていた。
①Aが背信的悪意者にあたる場合は、Bは地役権設定登記手続をAに請求できる、としたのが最判H10.12.18。
②背信的悪意者ではなくても、道路が継続的に使われていて、明らかに認識できる場合も同様、としたのが最判H10.2.13。
①に当たらない場合でも、「存在を否定できない」、つまり②である場合があるので、答えは○になります。
[自説の根拠]最判H10.2.13 H10.12.18 民法177条
3
物上代位について、適切か否か答えよ。
判例によれば,抵当目的不動産の賃料債権に対する物上代位は,賃料債権を生じる賃貸借契約が,抵当権設定登記後に設定された場合にのみ可能である。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
根拠となる判例をご存じの方いらっしゃいましたらご教示お願いします。
抵当権の賃料に対する物上代位の可否については、肯定説、否定説、折衷説(抵当権設定登記後に設定された賃貸借から生じた賃料であれば可能)がありましたが、下記の判例では、賃貸借後に根抵当権を設定した案件について、物上代位を肯定しています。
したがって、賃貸借契約と抵当権設定登記の前後にかかわらず、物上代位の行使は可能です。
尚、平成15年の民法改正では、371条を改正して、債務不履行後の抵当不動産の果実に抵当権の効力が及ぶことを明示しています。
[自説の根拠]物上代位-供託賃料の還付請求権(最高裁平成1.10.27)
前に一度その判例を見たのですが、「抵当権の目的不動産が賃貸された場合においては~」と書かれていたので、設定登記後の賃貸借だと思っていました。
賃貸借後に根抵当権を設定した案件だったんですね。
4
物上代位について、適切か否か答えよ。
請負工事に用いられた動産の売主には,請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対しても,動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使が認められる場合がある。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
平成10(許)4 債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告
平成10年12月18日 最高裁判所第三小法廷
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120629893729.pdf
請負代金の大半を機械の売買代金が占める様な場合には、転売による代金債権と同視できるため、物上代位権を行使することが可能。
[自説の根拠]最高裁平成10年12月18日
5
次の記述について、適切か否か答えよ。
混和によって混和物全体の所有権を得た者は,所有権を失った原所有者に対して,不当利得返還責任を負わない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
(付合、混和、加工に伴う償金の請求)
第248条 第242条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第703条及び第704条の規定に従い、その償金を請求することができる。
[自説の根拠]民法第248条
6
Aは,甲土地と甲土地上の未登記の乙建物を共に,BとCに二重に売却する契約を結んだ。
この事例について、判例の趣旨に照らして以下の記述が適切か否か答えよ。
Bが既に甲土地と乙建物の引渡しを受けている場合には,少なくとも乙建物の所有権は完全にBに移転しているので,Cが善意であっても乙建物の所有権を取得することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
民法177条より、不動産の物権変動の対抗要件は引渡しではなく登記となってますので、Cは乙建物の登記をBより先にしてしまえば所有権を取得できます。
7
Aがその所有するギター(以下「甲」という。)をBに貸していたところ,無職のCが金に困ってBから甲を盗み,自分の物だと称して友人のDに売却した。Dは,甲がCの所有物だと過失なく信じて,その引渡しを受けた。
この事例について、以下の記述が適切か否か答えよ。
Bは,盗まれた時から2年以内であれば,Dに甲を無償で返還するよう請求することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
設問では(即時取得)が成立していますが、
【193条】
占有物が盗品又は遺失物であるときは、
被害者又は遺失者は、
盗難又は遺失の時から二年間、
占有者に対してその物の回復を請求することができる。
(回復請求権)
占有者Dが、盗品甲を商人でないCから個人売買で買い受けたときは、被害者Bは、占有者Dが支払った代価を弁償しなくとも、その物を回復することができる。
~~~
(盗品又は遺失物の回復)
第194条
占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
[自説の根拠]民法第193条、194条
盗品の場合、dは盗難時から2年間は即時取得することができない
8
甲動産を所有するAが,これをBに売り,さらにBがCに譲渡したが,AがBから代金の支払を受けていない場合の法律関係に関する以下の記述について,判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
BからCへの譲渡がCの有する債権を担保するためのものである場合,甲動産がAからBに現実に引き渡され,さらにBからCに占有改定がされたときは,Aは,動産売買先取特権の行使として,甲動産を差し押さえることができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
ある動産に先取特権が成立しているかどうかは第三者は知ることができない。ある動産を購入したものの、実はその動産には先取特権が設定されていたとなると、取引の安全は害される。そのため、民法333条では「第三者に引き渡された後は先取特権を行使することができない」としてその動産を購入した第三者を保護する。上記の趣旨を考えれば、第333条の引渡しに「占有改定」は含まれる。購入した第三者を保護するためである。
(先取特権と第三取得者)
第333条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。
大判大正6年7月26日
第三取得者が目的動産につき対抗力ある所有権を取得した以上は、先取特権の追及効を制限するのが本条の趣旨であると解されるから、本条の「引渡」には民法183条の占有改定の場合も包含する。
↓
判例の趣旨に照らし、○です。
[自説の根拠]大判大正6年7月26日
9
AのBに対する金銭債権を担保するために,BがCに賃貸している建物を目的とする抵当権が設定された場合におけるAの物上代位権の行使について,判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
Aのために抵当権設定登記がされた後にCに対する賃料債権がBからEに譲渡されてその第三者対抗要件が具備された場合,Aは,同じ賃料債権を差し押さえて優先弁済を受けることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、…略…二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
[自説の根拠]平成9(オ)419 取立債権 平成10年01月30日 最高裁判所第二小法廷
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121205838685.pdf
関連問題
次の事例について、民法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
Aは,B所有の建物に抵当権を設定し,その旨の登記をした。Bは,その抵当権設定登記後に,この建物をCに賃貸した。Cは,この契約時に,賃料の6ヵ月分相当額の300万円の敷金を預託した。
Bが,BのCに対する将来にわたる賃料債権を第三者に譲渡し,対抗要件を備えた後は,Cが当該第三者に弁済する前であっても,Aは,物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。
10
民法の規定にある「本権の訴え」の概念について、適切か否か答えよ。
留置権は,物を占有する権利を含む物権であるから,それに基づく本権の訴えとして返還請求権を行使することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
目的物の占有は、留置権の存続要件なので、占有を失うと留置権が消滅します。よって、留置権に基づく返還請求は認められません。ただし、占有回収の訴え(203条但書)によって、留置物を取り戻すことはできます。
☆民法302条
留置権は、留置権者が留置物の占有を失うことによって、消滅する。ただし、第二百九十八条第二項(債務者の承諾を得たうえでの賃貸等)の規定により留置物を賃貸し、又は質権の目的としたときは、この限りでない。
11
民法の規定にある「本権の訴え」の概念について、適切か否か答えよ。
地上権者は,本権の訴えとして地上権に基づく返還請求権を行使することができることが原則であるが,土地の所有者に対し返還請求権を行使することはできない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
例えば・・・
地上権者が土地の所有者に占有を奪われた場合、土地の所有者に対し地上権に基づく返還請求権が行使できるということでしょうか。
地上権者は、他人の土地において工作物又は竹林を所有するため、その土地を使用する権利を有します。
そして、地上権に基づいて、その土地を使用する権利のために、物権的請求権(返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権)すべてを行使することができます。
したがって、土地所有者に対しても、その土地を使用する権利について、地上権に基づく返還請求権の行使ができます。
[自説の根拠]民法265条(地上権の内容)
関連問題
所有権に基づく物権的請求権について、判例の趣旨に照らして適切か否か答えよ。
所有権に基づく返還請求権を行使する相手方の占有は,直接占有でなければならず,間接占有であってはならない。
12
物上代位について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
抵当権に基づく物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた場合であっても,それより前に抵当権が設定され,第三者に対する対抗要件が備えられていたならば,抵当権者は,自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
最判平成10年1月30日は、抵当権者が抵当権設定登記を得ていれば、
「抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である」
としています。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121205838685.pdf
物上代位権の行使は、「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」とされています。(民法304条1項但書)
しかし、この事例のように、抵当権設定登記後、「差押え前」に目的債権の譲渡がされ、対抗要件が備えられた場合であっても、その後に抵当権者が目的債権を差押えて物上代位権を行使できるとされる理由は下記の通りです。
※続く
[自説の根拠]最判平成10年1月30日
※続き
●304条1項の規定は、第三債務者が二重弁済を強いられる危険性から保護する趣旨であるところ、差押前の弁済は、その消滅を抵当権者に対抗できるし、未弁済でも供託によって免責され、第三債務者の利益が害される心配はない。従って「払渡又は引渡」に債権譲渡は含まれない。
●また、そもそも抵当権設定は公示されており、このことは予測可能である。
●また、もし債権譲渡が優先するとした場合、抵当権設定者は、差押え前に債権譲渡をすることによって、容易に物上代位権の行使を免れることができてしまうため。
[自説の根拠]最判平成10年1月30日
関連問題
次の事例について、民法の規定及び判例に照らして適切か否か答えよ。
Aは,B所有の建物に抵当権を設定し,その旨の登記をした。Bは,その抵当権設定登記後に,この建物をCに賃貸した。Cは,この契約時に,賃料の6ヵ月分相当額の300万円の敷金を預託した。
Bが,BのCに対する将来にわたる賃料債権を第三者に譲渡し,対抗要件を備えた後は,Cが当該第三者に弁済する前であっても,Aは,物上代位権を行使して当該賃料債権を差し押さえることはできない。
13
根抵当権でない抵当権について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
金銭消費貸借契約に基づく貸金債権について抵当権の設定登記がなされたが,結局元本が交付されなかった場合,抵当権設定者は,被担保債権の不存在を理由として,抵当権者に対して,抵当権設定登記の抹消を求めることができる。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
『抵当権の付従性』
被担保債権がなければ抵当権は存在しない、という性質を付従性といいます。
金銭消費貸借は要物契約ですので、元本が交付されないと契約は成立しません。そして、担保される債権なしに抵当権のみが存在することはありません。
当然に、抵当権設定者は抵当権設定登記の抹消を求めることができます。
14
動産物権変動と動産の即時取得について、判例の判旨に照らして適切か否か答えよ。
占有改定により占有を取得した者は,動産の即時取得を主張することができない。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
○
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 (民法 239条)
最高裁判例昭和32年12月27日
「無権利者から動産の譲渡を受けた場合において、譲受人が民法一九二条によりその所有権を取得しうるためには、譲受人はその占有を取得することを要ししかもその占有の取得は占有改定の方法による取得をもつては足らないものといわなければならない。」
15
Xが所有権に基づき占有者Yに対し土地の引渡しを請求した場合,判例の趣旨に照らしYが引渡しを拒絶することができるか否か答えよ。
土地を所有し占有するYは,Aに対し,同土地を売却して移転登記を行ったが,この売買にはAによる詐欺があったので,YはAに対して取消しの意思表示をした。その直後,Aは,同土地をXに売却して移転登記を行った。 司法試験問題 [改題] (最終改訂日: 2010年05月11日)
×
取消後に出現した第三者との関係は、対抗関係として処理されます(大判昭和17年9月30日)。
Xに登記が移転している以上、YはXからの引渡請求を拒絶できません。
Warning: ltrim() expects parameter 1 to be string, object given in /home/shikakucyou/shikaku-chousen.net/public_html/wp-includes/formatting.php on line 4343