第三節 売買
今回から2回は、契約の中心・売買契約について解説します。今回は、①売買契約と手付、②売買契約の効力――の解説です。
Ⅰ.売買契約と手付
売買契約とは、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約束して、相手方がその対価として代金を支払うことを約束することによって成り立つ契約です。
売買契約の当事者は、売主と買主です。売主の本体的債務は財産権を買主に移転すること、買主の本体的債務は対価として代金を支払うことです。
売買契約は売主・買主の双方が対価的な債務を負担する双務契約であり、また、売主・買主双方が得る利益に応じた代償を必要とする有償契約で、契約は当事者間の契約のみで成立するので諾成契約とも言えます。
売買は当事者間の合意のみで成立する諾成契約ですが、現実の取引の場面では、売買契約の成立の際に、当事者の一方の買主が売主に対して金銭などを渡すことがしばしば見受けられます。これを手付と言い、契約締結の際に当事者の一方が相手方に交付する金銭その他の有価物の総称です。
一般に手付は、
①証約手付
②違約手付
③解約手付――の3種類に分類されます。
①の証約手付とは、契約の成立を明らかにするための手付で、手付交付の本来の目的が以下の違約手付や解約手付の場合でも、同時に契約成立の時に契約成立を明らかにする面も有しているので、違約手付や解約手付も同様の性質を併有しています。
②の違約手付とは、手付を交付した人が契約で定められた債務を履行しない場合に、受領者が目的物を没収できるという趣旨で交付される手付です。主として、手付の交付者の違約に備える目的ですが、公平を保つために、受領者側の違約の場合には、交付された手付の倍額の償還が定められているのが通常です。
③の解約手付とは、契約の解除権を留保する趣旨で交付される手付です。交付者は、解約手付が交付されていれば、手付を放棄することで契約を解除することができます。一方、受領者は倍額償還することで契約を解除することができます。ただし、この解除権行使には、債務履行の着手にかかった相手方の保護のために、債務の履行に着手するまでという時間的制限があります。
実際に交付された手付が3種類のどれに当たるかは、当事者の意思の解釈の仕方で定まりますが、民法では、手付として解約手付を推定しています。この場合、契約解除による損害賠償はできません。
また、解約手付は代金の一部の前払い(内金)としての性質を持ち合せる場合が通常です。解除権が行使されずに後日契約が履行された場合には、代金の一部に充当されます。
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Ⅱ.売買契約の効力
売買契約の本体的効力は、売主の財産権の移転義務と買主の代金支払義務であることは、前述のとおりですが、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。
1)売主の目的物引渡義務と買主の代金支払義務
当然ですが、売主は財産権移転義務として、買主に対して目的物を引渡して目的物の占有を移転する義務を負います。
さらに、売主には目的物の占有移転だけでなく、移転した権利についての第三者対抗要件を具備させるように協力する義務もあると理解されています。その理由は、第三者対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないので、ここまでの義務を売主に求めないと、買主は目的を達成できないからです。
一方、買主には代金を支払う金銭債務があるのは、言うまでもありません。
2)売主の担保責任
中古車を購入した人が、乗り出してみたら伝えられていない不具合を見つけた場合を考えてみましょう。
この例のように、売買の目的について、数量、性能、品質などで不完全な点があるために、買主が予定していた目的を得ることができなかった場合に、買主を保護するために、売主に対して課した責任を売主の担保責任と言います。売主の損害賠償義務、買主の解除権等が規定されています。
3)他人物の売買
売買契約は、本来は売主の有する財産権を目的としますが、他人の財産権を売買の目的としても無効とはなりません。
もちろん、権利者が承諾しないで権利が買主に移転してしまうわけではなく、売主は権利者から権利を取得して買主に移転する義務を買主に対して負うことになります。
売主が買主に権利の移転をすることができない場合は、買主は契約解除できます。
第81回で売買契約の性質や効力についてお話しましたが、今回は①売買に関する特別法、②買戻特約と交換契約――について解説します。
Ⅰ.売買に関してはいろいろな特別法がある
現在の発展した社会の中では、一口に売買と言ってもその内容は様々なのは、皆さんもご承知のとおりで、民法のみで、取引により生じた問題の解決を図ることは難しいと言えます。また、契約自由の原則に従って、売買契約の内容を当事者間に任せることは、消費者や生産者などの社会的弱者に不利な事態が発生しやすいとも言えます。
そこで、売買に関しては、多数の特別法を制定して、社会的弱者を保護する措置がとられています。これからお話しする内容は民法そのものではありませんが、民法と一体化して売買契約にとって重要な決まり事なので、しっかり身に付けてください。
では、特に消費者保護の立場から重要なものを見ていきます。
1)宅地建物取引業法
宅地建物取引業法の規定は不動産の売買のみの規定ではありませんが、ここでは、民法と絡む不動産の売買に関する点に焦点を絞ります。
不動産の売買を仲介するいわゆる不動産業者は、購入者等の利益の保護と宅地建物の流通の円滑化を図るために、免許制を採用しています。また、営業所には必ず宅地建物取引主任という国家資格を有した人を置く必要があります。
2)特定商取引に関する法律(旧訪問販売法)
特定商取引法では、特定の分野の取引については、消費者を保護するために契約時に条件を明示した契約書の作成と交付が業者に義務付けられています。
また、通常民法では、契約を結んだ以上は、正当な解除理由がないまま契約を一方的に破棄することは禁止されていますが、特定商取引法のクーリング・オフの制度では、契約内容を明らかにした書面が交付されてから8日以内であれば、買主は書面により一方的解除(申込みの撤回)が可能です。
3)割賦販売法
特定商取引法と同様の規制は、割賦(かっぷ)販売の場合にも行われ、割賦販売法が制定されています。なお、割賦販売法には抗弁権の接続という制度に特徴があります。
消費者が信販会社を介して販売業者から商品を購入した場合は、通常、商品の代金は信販会社が販売業者に立替払いを行って、消費者は信販会社に割賦弁済します。このとき、もし目的物である商品に瑕疵があって購入者が代金支払いを拒みたくても、民法の規定によれば、第三者である信販会社からの請求には応じなくてはなりません。
でも、これではあまりにも消費者がかわいそう…、ということから、政令で指定された一定の割賦販売では、買主は販売業者に対して持っている抗弁権で信販会社に対して対抗できることを定めています。
4)消費者契約法
消費者契約法は、消費者、事業者間の不当な商品、サービスの売買、供給契約、悪質な販売方法の規制を目的としている法律です。
この法は、民法の詐欺、強迫の要件を類型化して緩和し、次のような場合などによって締結した契約は取消しが行えると規定しています。
①重要事項に虚偽の説明を受けた
②不確実な事項について断定的な説明を受けた
③自宅に居座られた
④営業所から返してもらえなかった
Ⅱ.売買についての特殊な契約もある
民法は、特殊な売買という形で買戻しに関する規定を設けています。また、同様の機能を持つ再売買の予約も形式的には売買の形をとっています。しかし、これらの制度の性質は、実際には売買を離れた債権の担保手段(売渡担保)となっていることに注意が必要です。
1)買戻し
買戻しとは、売買契約の際の特約で、売主が代金および契約の費用を買主に返還することによって売買契約を解除し、目的物を取り戻すことです。
買戻しの目的物は不動産に限定されます。また、特約は売買契約と同時に行われる必要があるとともに、買戻しができる期間は10年までとされ、更新することはできません。
買戻しは、買戻義務者に対する意思表示で行えます。目的不動産が第三者に譲渡された後でも、買戻しの特約を登記しておけば、登記を備えた第三者にも対抗できます。
また、買戻権を譲渡することも可能です。買戻権の譲渡は、買戻特約の登記がなされている場合にはその付記登記によって、なされていない場合には債権譲渡の規定に準じて、相手方である買主への通知と承諾によって対抗できることになります。
買戻特約はどんな場面で有効かというと、買主が売買代金を支払わないような場合に、これを行使して不動産を取戻すことが可能になるという点で、債権担保の手段として利用されます。しかし、買戻しには種々の厳格な制約が付されますので、今日にはこの制度の利用はあまり見られません。
2)再売買の予約
再売買の予約について、例を挙げて説明します。
例えば、土地を担保に融資を受ける際に、その土地を相手方に売却して、その代金という形で相手方から融資を受け、その時に将来再び自分がそれを取戻せるように逆方向の売買契約を予約しておくことがあります。将来、その予約完結権を行使して、目的物を取返す時に、再売買の代金支払いという形で融資金の返済を行います。こういう担保の形を再売買の予約と言います。
再売買の予約の目的物は不動産とは限らず、また、予約を売買契約と同時に行う必要も、最初の売買と再売買の売買代金が同じである必要もありません。さらに、仮登記によって公示することも可能なので、買戻しに比べて債権担保の手段としてはよく利用されています。
3)交換契約
交換契約とは、当事者が互いに財産権を移転する契約のことです。当事者双方が相手方に対して財産権の移転義務を負う、双務・有償・諾成契約で、貨幣制度が発達している今日では、交換契約が社会生活の場面で登場することは極めて少なくなっています。
賃貸借契約とは、貸主が自分の物を借主に使用・収益させ、借主が賃料を支払う契約で、目的物が不動産である場合には、賃借人が生活基盤としていることが多く、通常の民法の規定では残酷な結果をもたらすことも多いので、借地借家法という特別法を定めて、その保護を図っています。
今回は、①賃貸借契約、②土地の賃貸借契約、③建物の賃貸借契約――について解説します。
Ⅰ.賃貸借契約
賃貸借契約とは、賃貸人である当事者の一方が賃借人である相手方に目的物の使用・収益をさせ、相手方はその対価として賃料を支払うことを約束することで成立する契約です。使用貸借と異なり賃料の支払いが契約の要件の一つです。
民法では、賃貸借の目的物は物に限定されていますが、実社会では権利の賃貸借も考えられます。そこで、権利の賃貸借は、非典型契約として有効とされ、民法の賃貸借に関する規定が準用されます。
1)賃貸借契約の性質
賃貸借契約は、賃借人の賃料の支払いという義務による有償契約であり、賃貸人の使用・収益させる債務と賃借人の賃料支払義務とが対価的に発生する双務契約です。また、当事者間の合意のみで契約が成立する諾成契約でもあります。
賃貸借においては、上記の本体的な義務のほか、賃貸人には
①目的物の修繕義務
②賃借人が目的物を維持などするために費用を負担した場合の費用償還義務――があります。
一方、賃借人には、
①目的物の保管義務
②賃貸借終了時の目的物返還義務――が発生します。
2)賃貸借契約の終了
賃貸借契約特有の終了原因には、
①存続期間の満了
②解約申入れ
③賃貸借についての特別規定による解除――があります。
賃貸借の存続期間は、期間を定めた場合は当然その期間ですが、民法の規定では、20年を超えることはできないとされ、期間を定めなかった場合は、期間の定めのない賃貸借契約として、当事者はいつでも解約の申入れが行えます。
このほか、賃貸借の存続期間をまとめると次のようになります。
①一般の賃貸借の場合⇒賃貸借の期間は20年を超えることはできず、これを超える期間を定めても20年に短縮される。
②被保佐人、不在者の財産管理人など財産を管理する能力はあるが処分能力や権限のない人が賃貸あるいは賃借する場合⇒短期賃貸借となり下記が法定されている。
・樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃貸借⇒10年
・その他の土地の賃貸借⇒5年
・建物の賃宅借⇒3年
・動産の賃貸借⇒6カ月
なお、期間が終わる前は、土地1年内、建物3カ月内、動産1カ月内に通知が必要です。
また、賃貸借に特有の契約の解除原因として、
①賃貸人に無断で賃借人が目的物を転貸すること
②賃貸人に無断で賃借人が賃借権を譲渡すること――があります。
転貸の法律関係は、次のようになっています。
①貸主の承諾がなければ、賃借権の譲渡や転貸は許されない。無断で転貸した場合は貸主は契約解除できる。ただし、背信行為と認められない場合は解除できない。
②貸主の承諾がある場合、転借人は貸主に対して直接義務を負う。また、貸主は借主(転貸人)に対して、賃料の請求権を失わない。
3)賃借権の性質からくる問題点
民法では、賃借権は債権の一つとされていますので、物権と比較するととても弱い権利と言えます。
例えば、目的物が賃貸人から第三者に譲渡された場合は、新所有者に対抗できず、新所有者からの明渡請求に応じざるを得ません。民法605条では、一応、不動産の賃借権登記には対抗力を認めていますが、賃貸人が賃借権登記に協力するとは考えにくく、この登記が行われることはごく稀です。
また、前述のように賃借権の無断譲渡・転貸は契約解除の事由ともなっているので、賃借権の処分にも大きな制限があります。
特に不動産に関する賃借人保護のための特別法を以下で解説します。
Ⅱ.土地の賃貸借契約
民法で賃借権が債権とされ物権に比べて弱い権利であることが問題となっている原因は次の3点です。
①存続期間が短すぎる
②第三者への対抗力がない
③譲渡、転貸の制限がある
特に、目的物が不動産におけるこれらの問題に対処するために、いくつかの特別法を経て、平成4年、現行の借地借家法が制定されました。借地権には、①普通借地権、②定期借地権――の2つがありますが、ここでは普通借地権についてお話しします。
1)借地権の意義
借地借家法による保護の対象は、建物所有を目的とする賃借権(地上権も含む)です。つまり、土地を借りて借地人が自分所有の建物を建てる場合などに限られています。ただし、建物所有と言っても、避暑のために立てる高原の別荘や、海の家のような一時使用の目的の場合は含まれません。
普通借地権の存続期間は、期間を定めた場合はもちろんそれに従いますが、下限は30年となっています。存続期間の定めがない場合は、一律30年です。
借地の場合、借地上に登記した建物を所有することが第三者対抗要件です。この場合に、判例では、所有者と登記名義人が同じ必要があるとしています。その理由は、所有者以外の登記名義では真の借地人の推察が困難になるからです。
2)借地権の処分と借地契約の終了
賃借権は賃貸人の承諾なしに、譲渡・転貸できないことを前述しましたが、借地の場合、地主が不利益を被るおそれがないにもかかわらず承諾しない場合には、借地人は裁判所に賃貸人の承諾に代わる許可を求めることができます。
借地契約の場合は、期間満了が一応、契約の終了期限となりますが、これには法定更新の制度があるため、賃貸人が正当事由を持って更新拒否をしない限り更新されて同一内容の賃借権が成立したものと見なされます。
賃貸人の正当事由とは、通常、
①自己使用の必要性
②立退料の提供――などを考慮して総合的に判断されます。
借地上の建物に建物賃借人がいる場合には、原則としてその建物賃借人の事情は正当事由の判断の範囲外です。
借地権が期間満了によって終了するとき、賃借人は賃貸人に対して時価で地上建物などの買取りを請求できます。
また、定期借地権の場合は、法定更新はなく期間の満了により契約は終了します。
Ⅲ.建物の賃貸借契約
借地借家法が適用される借家の概念については、規定されていませんが、いわゆる間借りや公営公団住宅なども適用の範囲であることは間違いないようです。ただし、一時使用の場合は、借地同様、借地借家法の適用とはなりません。
1)借家権の存続期間と対抗要件
普通借家契約の場合、当事者が借家契約の期間を定めた場合は、もちろんその期間が存続期間です。平成12年3月1日以降の新たな契約では、民法上の20年という上限は撤廃され、1年未満を定めた場合は期間の定めがなかったことと見なされます。
期間を定めてない借家の場合、借地の場合のような一律○年と見なされるような規定はなく、期間の定めのない借地契約として成立します。
また、定期借家契約の場合は、賃貸期間は無期限です。また、1年未満の契約も有効とされています。
借家には、引渡しで対抗力が付与されます。つまり、居住していれば家主が建物を売っても、新家主に対抗できるわけです。
2)借家権の終了
期間の定めのある借家契約は、借地同様、法定更新の制度が存在します。家主は、期間満了の1年前から6カ月前の間に正当事由を具備した更新拒絶の通知をしなければ、従前と同様の内容で契約は法定更新されます。
期間の定めのない借家契約は、原則的な終了事由は解約申入れですが、解約申入れにはやはり正当事由が必要で、猶予期間も6カ月あります。さらに、正当事由がある場合でも、借家人の使用継続に対して家主が遅滞なく異議を申述べない場合は、やはり法定更新されます。
法定更新後の借家契約は、更新前の契約が期間の定めある契約であった場合も、期間の定めない契約に統一されます。
また、正当事由の判断は、借地同様、
①借家人または転貸人である当事者の建物使用の必要性――を重点に、
②従前の経過
③建物利用状況
④立退料――などから総合的に判断されます。
なお、借地の場合は、
⑤建物の現況――も判断材料となり得ます。
なお、定期借家契約の場合は、更新はなく、期間の満了により契約は終了します。
3)造作買取請求権
借地契約終了時、借家人は分離が物理的にも経済的にも容易で、建物の使用に客観的に便宜を与える造作を買取請求できます。これを造作買取請求権と言いますが、特約で造作を排除することが認められていればこの限りではありません。
以上に述べたような借地・借家関係に認められる賃借権の物権のような強い効力を賃借権の物権化現象と呼ぶことがあります。
第一款 総則
(売買)
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
(売買の一方の予約)
第五百五十六条 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。
2 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。
(手付)
第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。
2 第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。
(売買契約に関する費用)
第五百五十八条 売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。
(有償契約への準用)
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
第二款 売買の効力
(他人の権利の売買における売主の義務)
第五百六十条 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。
(他人の権利の売買における売主の担保責任)
第五百六十一条 前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。
(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)
第五百六十二条 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。
2 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。
(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)
第五百六十三条 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。
第五百六十四条 前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。
(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)
第五百六十五条 前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
(抵当権等がある場合における売主の担保責任)
第五百六十七条 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。
2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。
3 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。
(強制競売における担保責任)
第五百六十八条 強制競売における買受人は、第五百六十一条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
(債権の売主の担保責任)
第五百六十九条 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。
2 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。
(売主の瑕疵担保責任)
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。
(売主の担保責任と同時履行)
第五百七十一条 第五百三十三条の規定は、第五百六十三条から第五百六十六条まで及び前条の場合について準用する。
(担保責任を負わない旨の特約)
第五百七十二条 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。
(代金の支払期限)
第五百七十三条 売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。
(代金の支払場所)
第五百七十四条 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。
(果実の帰属及び代金の利息の支払)
第五百七十五条 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第五百七十六条 売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。
(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第五百七十七条 買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2 前項の規定は、買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
(売主による代金の供託の請求)
第五百七十八条 前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。
第三款 買戻し
(買戻しの特約)
第五百七十九条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(買戻しの期間)
第五百八十条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。
2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。
3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。
(買戻しの特約の対抗力)
第五百八十一条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。
2 登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。
(買戻権の代位行使)
第五百八十二条 売主の債権者が第四百二十三条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は、裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができる。
(買戻しの実行)
第五百八十三条 売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。
2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
(共有持分の買戻特約付売買)
第五百八十四条 不動産の共有者の一人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に、その不動産の分割又は競売があったときは、売主は、買主が受け、若しくは受けるべき部分又は代金について、買戻しをすることができる。ただし、売主に通知をしないでした分割及び競売は、売主に対抗することができない。
第五百八十五条 前条の場合において、買主が不動産の競売における買受人となったときは、売主は、競売の代金及び第五百八十三条に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において、売主は、その不動産の全部の所有権を取得する。
2 他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは、売主は、その持分のみについて買戻しをすることはできない。
第四節 交換
第五百八十六条 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。
2 当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。
第五節 消費貸借
今回は、契約のうちの①消費貸借契約、②使用貸借契約についてお話しします。
Ⅰ.消費貸借契約とその問題点
消費貸借契約とは、借主である当事者の一方が、貸主である相手方から一定の金銭などを受取り、これと同種、同等、同量の物を返還することを約束することによって成立する契約です。目的物は金銭とは限りませんが、実際の場面で最も多いのが、金銭の消費貸借です。
1)消費貸借の性質
消費貸借の合意の内容は、借主が物の返還を約束することだけですので、借主は返還債務を負いますが、貸主は債務を負わない片務契約です。また、無利息の場合は、消費貸借によって利益を受けるのは借主だけと言えるので無償契約ですが、利息が発生する場合は有償契約になります。
また、消費貸借は、金銭等を受取ることによって成立するので、要物契約です。ただし、この要物性は、預金通帳と印鑑を交付するなどのように貨幣の授受と同等の経済的価値の移転があればOKとされています。
金銭などの授受のない場合は、民法上の消費貸借は成立しませんが、非典型契約としての諾成的消費貸借契約は成立すると解釈されています。諾成的消費貸借が認められれば、約束の金銭を貸し渡せという権利の主張が行えます。
2)消費貸借の終了
消費貸借では借主が返還義務を負担します。返還時期は、返還時期の定めがあった場合は当然にその時期となりますが、定めのない場合は、貸主が催告したときになります。ただし、消費貸借の場合は、借主の返還金調達に配慮して、相当期間(3日~2週間程度)の猶予が与えられます。
3)準消費貸借
売買代金債務を負担する人が、売主との契約のその債務を消費貸借上の債務に改めるような場合を準消費貸借と言います。
Ⅱ.使用貸借契約とその問題点
使用貸借契約とは、借主である当事者の一方が無償で使用・収益をなした後に、返還することを約束して貸主である相手方からある物を受取ることによって成立する契約です。簡単に例えれば、友人から本を借りることがこれに当たります。
1)使用貸借の性質
使用貸借は賃料の支払いがないので、当然、借主が目的物の使用という一方的な利益を受けるだけの無償契約です。一般的には、無償契約は成立に何らかの形式を要求することが多く、使用貸借契約も物の引渡しによって契約が成立する要物契約です。つまり、「それを貸せ!」と要求する権利までは認められていないことになります。
また、要物契約なので、契約成立の時点では貸主には引渡しの債務は既に存在せず、借主に返還債務が存在しているだけの片務契約でもあります。
なお、使用・収益の対価を支払った場合は、次回に解説する賃貸借契約となるので、使用契約と賃貸借の違いは、賃料の支払いの有無と言うことができます。
2)使用貸借の社会的機能
現在の取引社会においては、無償の使用は例外的であり、使用貸借は、親族間、友人間などの特別な関係にある人の間での貸借に限られていると言っていいでしょう。
親族間の土地貸借が、使用賃借か賃貸借か、あるいは地上権かの認定は、しばしば深刻な問題となっています。一つの基準として、判例では、父親と父親所有の建物に同居していた父親の相続人は、特段の事情がない限り、父親の死後、遺産分割が終了するまでは、引続き無償で使用させるという合意が父親との間にあったと推定できるとして、父親の死亡後、遺産分割までの建物使用関係を父親の共同相続人が貸主、同居相続人が借主とした使用貸借関係と見なしています。
使用貸借が主に問題となる場合をまとめると次のようになります。
①貸したものに欠陥があった場合の貸主の責任⇒贈与と同じで、貸主が欠陥があることを知らなかった場合は責任を負うことはない。知ってしながら相手に告げなかった場合は責任を負う。
②貸借期間を定めなかった場合、いつ借りた物を返すのか⇒契約に従って使用・収益の目的を終了したときに返還。また、それ以外でも、使用・収益をなすのに十分な期間が経過したときは、貸主は返還を請求できる。一方、貸主は、契約で返す時期・使用目的を定めなかったときは、いつでも返還請求できる。
③土地や建物の使用貸借で法定更新はあるのか⇒借地借家法では、定期借地権、借家権を除き、契約期間が満了しても、地主や家主側に正当理由がない限り、契約は更新されるとしているが、使用貸借の場合、この借地借家法の適用はなく、法定更新もない。
3)使用貸借の効果と終了原因
使用賃借契約は無償契約であることから、貸主の立場を考慮し、貸主は悪意の場合以外では、担保責任を負わないことになっています。
また、使用賃借の終了原因は特有です。契約で返還時期を定めた場合は、その時期と言うのは普通のこととして、返還時期を定めなかった場合は、借主は契約に定められた目的に従って使用・収益を終えた時期が返還義務を負う時です。それ以前でも、使用・収益を行うのに十分な時期を経過した時も、貸主は直ちに返還請求を行えます。
つまり、使用賃借は、用が済めばすぐに返還するということが基本です。
また、使用賃借は借主が死亡した場合は使用賃借契約自体も終了します。