第七章 遺言
前回までは、法定相続を中心にお話ししてきましたが、法定相続より優先される遺言があり、遺言の有効性や、法定相続人であるのに遺言により相続人の地位を外されていた場合など、様々な問題を含んでいます。
今回は、①遺言制度の仕組み、②遺言の種類、③遺言の効力――をお話しします。
Ⅰ.遺言制度の仕組み
遺言とは、自分が死んだあとの法律関係をあらかじめ定めるために行っておく一定の様式を整えた法律行為のことで、遺言者の死亡によって効力を発生します。
相続には、
①法定相続
②遺言相続――がありますが、遺言相続は、被相続人の意思を尊重して、ある範囲で相続財産の承継を被相続人にコントロールさせることができる制度です。
1)遺言できる人
遺言という法律行為の特徴の一つとして、未成年者などの制限能力者であっても、法定代理人や保佐人・補助人などの同意なしに遺言できることが挙げられます。理由は、そもそも後見制度は、制限能力者の保護のためなので、死亡した制限能力者は保護する必要がないからです。
ただし、遺言も意思表示が必要な法律行為と言えるので、意思能力が備わったと思われる満15歳にならないと遺言はできません。つまり、遺言能力の取得時期は満15歳です。
また、成年被後見人が遺言をするには、事理弁識能力が一時回復していなければなりません。そのため、遺言には医師2人以上の立会いが必要とされています。ですから、常に事理弁識能力が著しく不十分と考えられる成年被後見人は、遺言できません。
なお、遺言の効力の発生は遺言者が死亡したときですが、遺言能力の有無の判定は、遺言の意思表示をした時点です。
2)遺言には一定の要式が必要
遺言は厳格な要式行為です。それは、効力発生後に本人の気持ちを確認することは、死亡しているので当然行えず、しっかり管理しておかないと、他の人が勝手に変えてしまう可能性もないとは言えないことです。
一般的な遺言には、次のような決まりがあります。
①複数で同一書面による遺言はできない
②自筆での遺言以外は法定の欠格事由のない証人、または立会人が必要
③いったん作成した遺言書の変更を行うときは、該当する箇所に直接変更後の文言を記入して、その部分に訂正印を押し、さらに、変更箇所近くの余白などにどの部分にどのような訂正をしたかを付記して署名が必要
Ⅱ.遺言の種類
上記のように厳格な要式が必要な遺言の方式は、大きく、普通方式と特別方式――に分けられ、
普通方式はさらに、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言――に、特別方式はさらに、④危急時遺言、⑤隔絶地遺言――に、④はさらに、⑥一般危急時遺言、⑦船舶遭難者遺言に、⑤はさらに、⑧伝染病隔離者遺言、⑨在船者遺言――に分けられます。
いろいろ並んで分かりにくいので、次からゆっくり確認しましょう。
1)普通方式遺言
普通方式遺言は、
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言――の3つです。
①の自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文、日付、氏名ともに自筆で書き、これに押印して成立する遺言です。最も簡単な方法と言え、証人の立会いの必要ないため、秘密にしておくには一番有効な方法です。ただし、遺言書の保管等に難点があります。
②公正証書遺言とは、遺言者が口述した遺言内容を公証人が代筆する遺言で、公証役場で保管してくれます。2人以上の承認と一緒に公証役場に出向くか、公証人に出張を依頼して、公証人の面前で遺言内容を口述します。紛失や改変のおそれがないという長所がありますが、煩雑で費用がかかることや秘密保持に難点があります。
③秘密証書遺言とは、遺言者が自己または第三者の作成した遺言書に署名、押印し、市販の封筒などに入れて封をして、公証人と2人以上の承認の面前に出すと、公証人が日付と遺言者の申述を封紙に記載して、遺言者、証人、公証人の全員で署名・押印して成立する遺言です。公証役場で保管してくれないので、相続開始までの保管方法が難点です。
2)特別方式遺言
特別方式遺言は、実際に用いられることは稀です。下記の表にまとめましたので確認してください。
Ⅲ.遺言の効力
遺言ができる事項は、
①遺贈
②相続分の指定
③推定相続人の廃除――などです。
1)遺贈
遺贈とは、遺言により無償で財産を与えることで、遺言事項の中でも重要な事項と言えます。遺贈を受ける人を受遺者といい、胎児も受遺者になり得ることは前述しましね。
遺贈には、
①受贈者に特定の財産を与える特定遺贈
②遺残の全部または一部の分数的割合を与える包括遺贈――があります。
特定遺贈とは、受遺者に特定の財産を与えることで、受遺者には遺贈の承認や放棄の自由が認められています。相続の承認・放棄のような考慮期間といった時間的制限や家庭裁判所に申出る必要もなく、遺贈者の相続人や相続財産管理人などの遺贈義務者に対する意思表示でことが足ります。
また、特定遺贈は、遺言の効力発生と同時に所有権が移転します。
一方、包括遺贈とは、受遺者が遺産の全部または一部を包括的に承継する点で相続に似ています。民法でも、包括受遺者は相続人と同一の権利義務があると規定しています。
つまり、
①承認・放棄には相続の承認・放棄の規定が適用される
②遺産分割手続きに参加する権利がある――ということです。
2)遺言の効力が発生する時期
遺言は何度も言いますが、遺言者の死亡の時から効力が発生します。つまり、「●●をAに与える」という内容の遺言があったなら、遺言者が死亡したと同時に●●の所有権はAさんに移転します。
ただし、遺言の効力が発生した後に、さらに一定の手続きが必要な例外もあります。例えば、推定相続人の廃除や取消しといった内容の遺言には、家庭裁判所の審判が必要です。この場合の効力の発生は、家庭裁判所の審判がなされた時です。
また、「福祉施設を設立して市に寄付する」と遺言した場合、市などの主務官庁の許可が必要です。この場合の効力の発生は、主務官庁の許可後に設立登記が行われた時です。
では、遺言が無効となるときはどんな時でしょうか? 3つの場合があります。
①遺言の方式に不備がある
②遺言の内容が公序良俗に反する
③遺言当時、遺言者に行為の是非・善悪を判断する能力がない
第一節 総則
(遺言の方式)
第九百六十条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
(遺言能力)
第九百六十一条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。
第九百六十二条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。
第九百六十三条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第九百六十四条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
(相続人に関する規定の準用)
第九百六十五条 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。
(被後見人の遺言の制限)
第九百六十六条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
第二節 遺言の方式
第一款 普通の方式
(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3 第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。
(成年被後見人の遺言)
第九百七十三条 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。
2 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。
(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
(共同遺言の禁止)
第九百七十五条 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
第二款 特別の方式
(死亡の危急に迫った者の遺言)
第九百七十六条 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3 第一項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
(伝染病隔離者の遺言)
第九百七十七条 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(在船者の遺言)
第九百七十八条 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
(船舶遭難者の遺言)
第九百七十九条 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4 第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。
(遺言関係者の署名及び押印)
第九百八十条 第九百七十七条及び第九百七十八条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印を押さなければならない。
(署名又は押印が不能の場合)
第九百八十一条 第九百七十七条から第九百七十九条までの場合において、署名又は印を押すことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を付記しなければならない。
(普通の方式による遺言の規定の準用)
第九百八十二条 第九百六十八条第二項及び第九百七十三条から第九百七十五条までの規定は、第九百七十六条から前条までの規定による遺言について準用する。
(特別の方式による遺言の効力)
第九百八十三条 第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
(外国に在る日本人の遺言の方式)
第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
第三節 遺言の効力
(遺言の効力の発生時期)
第九百八十五条 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
2 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。
(遺贈の放棄)
第九百八十六条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
第九百八十七条 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
第九百八十八条 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
第九百八十九条 遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2 第九百十九条第二項及び第三項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
(包括受遺者の権利義務)
第九百九十条 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
(受遺者による担保の請求)
第九百九十一条 受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。
(受遺者による果実の取得)
第九百九十二条 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈義務者による費用の償還請求)
第九百九十三条 第二百九十九条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
2 果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(相続財産に属しない権利の遺贈)
第九百九十六条 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
第九百九十七条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(不特定物の遺贈義務者の担保責任)
第九百九十八条 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任を負う。
2 不特定物を遺贈の目的とした場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。
(遺贈の物上代位)
第九百九十九条 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
2 遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第二百四十三条から第二百四十五条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
第千条 遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
(債権の遺贈の物上代位)
第千一条 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
2 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
(負担付遺贈)
第千二条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(負担付遺贈の受遺者の免責)
第千三条 負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
第四節 遺言の執行
今回は、前回お話しした遺言についてもう少し詳しく解説します。そして、今回で、長きにわたった民法の解説は終わります。
では、最終回は①遺言の執行、②遺言の撤回と無効、③遺留分とは――の解説です。
Ⅰ.遺言の執行
遺言の執行とは、遺言の効力発生後に遺言の内容を実現する手続き全般のことです。前回、推定相続人の廃除や取消しなどには家庭裁判所の審判などが必要な場合があるとお話ししましたが、当然、それを行うには担当者が必要です。
遺言の執行は相続人が行うこともできますが、推定相続人の廃除・取消しなどは、執行の内容が相続人が遺言の執行をすることに適さないので、遺言執行者を選任すべきことが規定されています。それ以外でも、遺言の内容が相続人間の利害関係を左右する場合は、遺言執行者による遺言の執行がふさわしいと言えます。
1)遺言執行者の地位
遺言執行者は相続人の意思によって選任されたものではないので、相続人の法定代理人と見なされますが、実質的には任意代理人に近い存在です。そこで、復代理人の選任は原則認められず、やむを得ない事情がある場合か、遺言自体で復代理人を許可された場合にのみ認められると規定されています。
遺言執行者が適正な遺言を執行しようとすると、遺贈義務の履行など相続人にとっては不利益になることも多いと言えます。そこで、遺言の執行がスムースに履行できるよう、民法では、遺言執行者には相続財産の管理権を与え、相続人に対しては遺言の執行を妨げる行為の禁止を規定しています。
2)遺言執行のための前準備
遺言の適正な執行を行うには、まず、遺言の存在と内容を明らかにする必要があります。そのための制度が遺言の検認と開封です。
公証役場に保管してある公正証書遺言以外では、遺言の保管者また発見者は、まず、家庭裁判所に遺言の検認を請求します。これを受けた裁判所では、どのような用紙に、どのような筆記用具で、何が書かれているかなどを調べ、調書に記載し、証拠保全を図ります。封印のある遺言の場合は、家庭裁判所で遺言を開封する手続きが、やはり必要です。
Ⅱ.遺言の撤回と無効
1)遺言の撤回
遺言の制度は遺言者の最終意思を尊重することにあるのですから、遺言をした後に、変更ができなければ実際と合わないものとなってしまいます。そこで、遺言には撤回の制度があります。
遺言撤回の制度は、遺言者はいつでも遺言の方式に従って行った遺言なら、どんな種類の遺言でも、全部または一部を撤回することができる制度です。例えば、公正証書遺言や秘密証書遺言を自筆証書遺言で撤回することもOKです。この撤回権は、放棄することもできなければ、撤回の自由は制限されることもありません。
遺言の撤回の方法は3つです。
①第2の遺言書を作成
②目的物である財産を処分
③第1の遺言書を破棄
①の第2の遺言書を作成すると、前の遺言書は撤回したことになります。つまり、最新の遺言書が有効ということになり、遺言には日付が必要だった理由はここにもあると言えます。
②の目的物である財産を処分すると、撤回の意思表示がなくても遺贈は成立しません。例えば、遺贈の目的としていた不動産を、うっかり他人に売却してしまった場合などで、これを遺言の撤回の擬制と言います。このような場合は、遺言はその部分については部分的に撤回されたと見なされることになっています。
③第1の遺言書を破棄すると、遺言はなかったことになります。遺言書を破棄したときにその前の遺言書があれば、その前の遺言書が復活し、有効になります。
2)遺言の無効と取消し
遺言が無効となる場合の要件は、次の4つです。
①遺言が方式に反する
②遺言者が遺言能力を欠く
③被後見人が後見終了前に後見人または後見人の配偶者や直系卑属の利益となるべき遺言をした
④公序良俗に反したり、錯誤があった
なお、詐欺や強迫によって行われた遺言は取消すことが可能ですが、遺言者による撤回も自由にできるので、事実上はあまり意味のあるものではありません。
Ⅲ.遺留分とは
実際の遺言がある場合の相続の話の中で、遺留分という言葉を耳にします。遺留分とは、一定の相続人に留保された相続財産の一定の割合のことで、死因贈与や遺贈によって奪うことのできない相続財産です。
本来、被相続人は財産を生前どのように処分し、死後の帰属をどうするかは、被相続人の自由なはずです。しかし、被相続人に扶養されていた人に対する生活保障や、被相続人の財産形成に貢献した人を保護するためなどから、被相続人が自由に処分できる財産の割合に制約を設けました。
遺留分を有する相続人が実際に得た相続財産の額が遺留分より少ないことを遺留分の侵害と言い、遺留分の侵害を受けた相続人に財産の返還を請求する遺留分減殺請求権を与えました。遺留分減殺請求権は、遺留分を有する相続人が自己の遺留分を保全するのに必要な範囲で、贈与や遺贈の効力を失効させ、財産の返還を請求する権利です。
遺留分減殺請求が行われると、遺贈や贈与は、遺留分を侵害する範囲で失効します。
遺留分を有する相続人とは、
①代襲相続人も含む子
②直系尊属
③配偶者――です。
第3順位である兄弟姉妹に遺留分は認められていないことに注意!です。
遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人であるときのみ、被相続人の財産の3分の1で、それ以外の場合は被相続人の財産の2分の1です。遺留分を持つ相続人が複数存在する場合は、各人の遺留分は法定相続分と同じに算定します。
例えば、第1順位の子2人と配偶者がいる場合は次のとおりです。
子の遺留分→1/2×1/2(法定相続分)×1/2=1/8
配偶者の遺留分→1/2×1/2(法定相続分)=1/4
また、遺留分額の算定は、被相続人が相続開始に有していたプラス財産を算定し、被相続人が死亡する前1年以内に贈与した財産価額と、1年以上過ぎていても贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を与えることを分かってした贈与価額を加えたものから、相続時のマイナス財産を引いて得た価額に対して、遺留分割合を乗じます。
ところで、遺留分も当然放棄することができます。放棄できるのは、相続開始後はもちろん、相続開始前に放棄することも可能です。ただし、相続開始前の場合は家庭裁判所の許可が必要です。
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
2 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
(遺言執行者に対する就職の催告)
第千八条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
(遺言執行者の欠格事由)
第千九条 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
(遺言執行者の選任)
第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
(遺言執行者の地位)
第千十五条 遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。
(遺言執行者の復任権)
第千十六条 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 遺言執行者が前項ただし書の規定により第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第百五条に規定する責任を負う。
(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)
第千十七条 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。
(遺言執行者の報酬)
第千十八条 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。
2 第六百四十八条第二項及び第三項の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。
(遺言執行者の解任及び辞任)
第千十九条 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
(委任の規定の準用)
第千二十条 第六百五十四条及び第六百五十五条の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合について準用する。
(遺言の執行に関する費用の負担)
第千二十一条 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。
第五節 遺言の撤回及び取消し
(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。
(撤回された遺言の効力)
第千二十五条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。
(遺言の撤回権の放棄の禁止)
第千二十六条 遺言者は、その遺言を撤回する権利を放棄することができない。
(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第千二十七条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
第八章 遺留分
(遺留分の帰属及びその割合)
第千二十八条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(遺留分の算定)
第千二十九条 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第千三十条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
(遺贈又は贈与の減殺請求)
第千三十一条 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
(条件付権利等の贈与又は遺贈の一部の減殺)
第千三十二条 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第千二十九条第二項の規定により定めた価格に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。
(贈与と遺贈の減殺の順序)
第千三十三条 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。
(遺贈の減殺の割合)
第千三十四条 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(贈与の減殺の順序)
第千三十五条 贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。
(受贈者による果実の返還)
第千三十六条 受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
(受贈者の無資力による損失の負担)
第千三十七条 減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。
(負担付贈与の減殺請求)
第千三十八条 負担付贈与は、その目的の価額から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。
(不相当な対価による有償行為)
第千三十九条 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。
(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
第千四十条 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。
(遺留分権利者に対する価額による弁償)
第千四十一条 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2 前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。
(減殺請求権の期間の制限)
第千四十二条 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(遺留分の放棄)
第千四十三条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
(代襲相続及び相続分の規定の準用)
第千四十四条 第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。