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2-1-9 法令科目 行政法 行政法の一般的な法理論9

今回は、まず、行政上の強制手段のうち代執行以外の①執行罰、②行政上の強制徴収をお話しします。
それから、もう一つの行政上の強制手段である直接強制について、直接強制と類似している即時強制(分類上は行政上の強制手段に含まれない)と比較しながら、③直接強制と即時強制――として、さらに④行政調査――を解説します。

Ⅰ.執行罰
執行罰とは、一定の期限を定め期限内に義務を履行しないときに科料に処す、つまり金銭の支払いを強制することを予告し、義務者に心理的圧迫を加えて、間接的に義務に履行を強制することです。
執行罰の対象になるのは、不作為義務または不代替的作為義務、つまり代執行の対象にならないものです。ただし、現在では執行罰は原則として排除され、砂防法36条がいわば法整備の漏れとして残っているのみです。執行罰も行政上の強制手段の一つですから、法律の根拠がなければ実施することはできません。
そこで、現在では、間接的な強制手段として行政罰に代えられているのが現状ですが、行政罰はあくまで制裁なので、履行の確保ができているとは言えません。執行罰は繰り返し徴収できますが、行政罰は1回のみという違いがあります。

Ⅱ.行政上の強制徴収
ところで、今までに説明した代執行や執行罰として徴収する重い過料のほか、私たちが一般的に国や公共団体にお金を支払わなくてはならなくなることはよくあることです。
例えば、税金、道路交通法における反則金――などなど。
そして、これらの支払いを怠ける私人がいることも、また容易に想像がつきます。
そのような場合に、強制的に金銭を取り立てて、義務を怠たることを認めないようにするための手続きが行政上の強制徴収です。これも、行政上の強制執行の一つですから、裁判所の手を借りずに、行政主体が直接に金銭を取り立てることができます。
行政上の強制徴収の定義は、国民が公法上の金銭債務を納期限までに任意に履行しない場合に、国または地方公共団体が強制的手段を用いて、その債務が履行されたと同様の結果の実現を図ることです。
また、行政上の強制徴収の根拠になる法律は、国税徴収法です。この法律は、税金の滞納処分のためのものですが、地方税法や租税以外の金銭支払義務が発生する場合も、例えば前回述べた代執行の費用について適用されます。なお、それぞれの法律に、「強制徴収は国税滞納処分の例による」との定めがあるのが通常です。
この結果、公法上の金銭支払義務は、どのようなものも国税徴収法による強制徴収によって果たされることになります。つまり、言い換えると、国税徴収法は、事実上強制徴収の一般法としての役割を果たしていると言えます。

Ⅲ.直接強制と即時強制
行政上の強制執行として残る直接強制と、行政上の強制執行ではないものの、直接強制と類似のものに即時強制があります。
まず、直接強制とは、行政上の強制執行ですから、これも義務の履行があったのと同様の状態を実現する作用の一つです。その手段は、直接に義務者の身体または財産に実力を加えることです。
これに対して即時強制も、行政上望ましい状態を作るため、直接に国民の身体または財産に実力を加える点で同じです。では、何が異なるのかと言えば、直接強制は義務の発生が前提になりますが、即時強制は義務の発生が前提にならないと言う点です。
例えば、直接強制の例として、学校施設の確保に関する政令によると、学校が学校教育の目的以外に使用された場合に管理者は返還命令を下すことができますが、この命令が履行されなかった場合に、直接返還を強制できます(学校施設の確保に関する政令21条)。
有名な成田新法も同じで、期限を付して工作物の使用禁止を命じたうえで、この命令に違反した場合に直接必要な措置を行えるという規定を設けています(成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法3条)。
これに対して即時強制は義務を命じるという段階がありません。
例えば、延焼のおそれがある消防対象物の処分(消防法29条2項)、救護が必要な者への保護措置(警察官職務執行法3条)、不法入国外国人の強制退去(出入国管理及び難民認定法52条)、違法駐車車両の移動(道路交通法51条6項)、感染症患者の強制入院(感染症予防法19条3項)のいずれも、いきなり強制手段を採ることができます。
なお、どちらも法律の根拠が必要です。

Ⅳ.行政調査
行政機関によって行われる情報収集活動を行政調査と言います。もちろん、行政機関が行政目標を達成するために行うもので、世の中のニーズに対応した適切な行政活動を行うには、その準備として欠かせない調査です。
行政上の強制手段をお話ししているこの項で、「なんで?」と思う人がいると思いますが、実は、行政調査には、直接実力をもって情報収集の目的を果たすものがある、つまり、即時強制の中に行政調査に当たるものがあるのです。
よい例として、警察官職務執行法2条の職務質問が挙げられます。なお、即時強制の中で強制を伴う行政調査を除いたものを特に即時執行と呼んで区別することがあります。
上記のほか、行政調査の例として、
①納税義務者に対する質問調査(所得税法234条1項)
②煤煙排出者の工場・事業所への立入調査(大気汚染防止法26条1項)――などが挙げられます。
行政調査は情報収集ですから、その結果、個人情報その他の秘密を侵すことになるかもしれません。そこで、行政調査も人権侵害が起きないように法律による規制が行われています。
まず、行政調査には①法律の根拠が要求されます。強制調査や間接強制を伴う調査では、人権侵害のおそれが大きいので法的根拠が必要なのです。
一方、任意調査には法律の根拠はいりません。
例えば、市民の声を市民団体が集めたり、新しい制度を定めるに当たりパブリックコメントを求める際、いちいち法律の根拠は必要ありません。もちろん、この場合にも、法律の優位の原則は妥当します。また、許容の範囲を明らかにする必要はあります。
また、人権侵害を防ぐには、行政調査に手続的な規制をすることも有効です。根拠となる法として行政手続法が思い浮かびますが、残念ながら行政調査は行政手続法の対象となっていません。行政調査の手続きについての一般法はないわけです。
もっとも、個別的に手続きを定めているものもあります。
例としては、①事前の通告を要すると規定しているもの(消防法4条1項・4条の2)、②居住者の承諾を要すると規定しているもの(建築基準法12条6項)、③調査に当たっての令状の取得が求められるもの(国税犯則取締法2条4項、出入国管理法31条4項)――などがあります。
前例のように個別に定めのある場合は、問題がないと言えますが、事前手続きの定めのない場合や不十分な場合に、個人の権利の保護のために、事前手続きがない行政調査が違法となる可能性が出てきます。
いずれにしても行政調査は法律の優位の原則の下にあるわけですから、法に定められた目的以外の調査をすることは行えません。また、違法な調査が行われた場合には、その調査が目的とする後続の行政処分の効力にも影響を与えます。
では、仮に税務調査が違法な場合、調査によって得られた資料に基づく更正処分の効果は否定されるのでしょうか?
原則として、調査の違法は行政行為の効力に影響しないというのが答えです。
その理由は、行政行為とその手段である行政調査は別個独立のものですし、情報収集は行政行為の不可欠の前提ではない以上、両者の関連性も必ずしも強くないと言えるからです。
ただし、行政行為と調査が一つの過程を構成していると評価できる場合で、行政調査に重大な瑕疵が存在する場合には、調査の違法が行政行為に影響し、行政行為も違法になる可能性は否定できません。

今回は、行政上の強制手段の最後です。①行政罰、②行政罰以外の制裁手段――について解説し、最後に行政上の強制手段を巡る判例を一覧にまとめます。いずれも過去の行政書士試験で出題された内容ですので、しっかり読み込んでおいてください。

Ⅰ.行政罰
行政上の強制手段として、行政強制のほかに行政罰があります。行政罰は、行政法上の義務違反に対し、制裁として科せられる罰のことです。制裁ですから、行政罰の目的が直接的には義務の履行の確保ではない点が、行政上の強制執行とは異なります。
もっとも、罰を加えれば義務違反の再発を予防できますし、一般の人が義務に違反することを予防できます。その意味では間接的に、行政罰にも義務の履行を促す効果はあると言えます。
行政罰には、
①行政刑罰
②秩序罰――の2種類があります。
行政刑罰は、刑法に定めがある刑罰を科すものです。本来刑法上の処罰である刑事罰が、反道徳的性質の行為に対する道義的責任であるのに対して、行政刑罰は、道義に反するとか、道徳に反するという側面が見られない点で刑事罰と区別しています。
特別な定めがない限り、行政刑罰には刑法総則が適用されます(刑法8条)。手続きとしては、原則として検察官による起訴を経たうえで、裁判所が刑を科します。
その例外が、
①国税反則通告制度
②交通反則通告制度――などです。
これらは、罰則該当者に一定の金銭の納付を通告し、納付がなされれば手続きが終了します。すると、公訴の提起がされないわけですから、行政刑罰の対象になりません。裁判所の関与がないまま、事実上刑事責任が確定し、事件が終了します。しかし、納付がなされなければ刑事手続きが開始されることになります。
もう一つの行政罰である秩序罰は、比較的軽微な義務違反に対して過料を科すものです。その目的は、行政上の秩序を維持する点にあります。義務違反は悪いので制裁はするが、義務違反の程度が小さく、周囲に対する直接的な障害や実害、高度な危険を発生させているわけではないので、軽い罰にしようというものです。
例えば、刑事裁判の証人尋問で正当な理由がないのに証言を拒んだとか、転居の際に正しい転入手続きを採らなかったとか、この出生届を期間内に提出しなかった――場合などに過料に科すなどが挙げられます(ここでは、過料に注意してください。刑罰での科料と区別する必要があります)。
この時に科せられる過料は刑罰ではないので、刑法総則の適用はありません。国が定めた義務に反する場合には、法令の規定に基づき国=裁判所が非訟事件手続に従って、地方公共団体が定めた義務に反する場合には、条例・規則に基づいて地方公共団体の長が行政行為の形式で、罰を科すことになります。
また、秩序罰は刑罰ではないので、行政刑罰と秩序罰の両方を同時に科すことが可能です。
例えば、証言義務違反の場合、秩序罰を科すほかに刑罰としての罰金を科すことがあります。この理由は、判例によれば、二重処罰の禁止(憲法39条)の定めの適用があるのは、刑罰だけとされているからです。したがって、秩序罰や、この後に出てくる加算税、課徴金を刑罰やその他の制裁手段と併科することは差支えありません。
また、代執行、直接強制などの義務の履行を強制すると同時に、行政罰を科すことも可能です。履行を確保する必要も、義務違反に対して制裁を行わなければならないことも、同時に成り立つからです。
例えば、器物損壊で罰金刑を科された人が、被害者に対して民法に基づく損害賠償をしなければならないことは、当たり前ですね。脱税でも、罰金が徴収されるのと別に、重加算税も課されます。これも目的が異なる制度だからです。

Ⅱ.行政罰以外の制裁手段
行政法上の制裁手段としてはそれ以外に、
①加算税
②課徴金
③公表
④授益的行政行為の撤回
⑤行政サービスの提供を拒否すること――などがあります。
まず、①の加算税とは、租税法上の義務違反に対するもので、申告義務違反等に科される経済的不利益のことです。
次に②の課徴金とは、経済法上不法な利益を得た業者が、不当に得た利益の額に応じて制裁金の支払いを命じられるものです。
例えば、事業者が不当な取引制限をした場合(独占禁止法7条の2・1項)などに科されるもので、直ちに違法とは言えなくても、放置することが社会的公正に著しく反すると言える行為に適用されます。罰ではありませんが、法律による禁止を間接的に担保するものということができるでしょう。
そして、③の公表とは、行政庁が義務違反のあった私人の違反の事実および当該私人の名前などを発表することです。権利の剥奪を行ったり、義務を負わせるものではなく、直接の実力行使もない点で、比較的緩い制裁手段です。
また、④の授益的行政行為の撤回とは、飲食店を営業停止にしたり、医師免許などの免許の剥奪をするなどがこれに当たりますが、このような行為によって義務違反をしないように間接的に強制する効果があると言っていいでしょう。
最後に⑤の行政サービスの提供を拒否して、勧告、是正、行政指導(後の回で詳しく解説します)に従わせることを狙うことがあります。市民は、日常生活を行政サービスに依存せざるを得ない点をうまくついた有効な手段と言えますが、そのような手段をちらつかせることが違法ではないか――との指摘もあります。

【行政強制に関する判例】
☆川崎民商事件(最大判昭47.11.22)
所得税法上の質問検査権に基づく調査を拒否した者が起訴された。
①旧所得税法63条の内容に不明確な点はないため、憲法31条に違反しない。
②収税官吏の検査は、刑事責任の追及を目的とする手続きではなく、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものでもなく、裁判官の発する令状を要件としなくても憲法35条に違反しない。
③憲法38条1項は、実質上刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく手続きには、等しく及ぶが、本件の検査は「自己に不利益な供述」を強要するものとは言えない。
☆一斉検問に関する判例(最決昭55.9.22)
交通安全に必要な警察の活動は、任意手段による限り酒気帯び運転を取り締まる一斉検問の実施は一般的に許容される。自動車の運転者は当然の負担として交通の取締りに協力すべきであり、また、警察官が交通違反の予防、検挙のための自動車検問を実施し、短時分の停止を求めて運転者などに対し必要な事項についての質問をすることは、相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、形態で行われる限り、適法なものである。
☆警職法上の所持品検査に関する判例(最判昭53.9.7)
警察官が職務質問に附随して行う所持品検査は、承諾を得るのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみ、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される場合がある。

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